福岡の経営コンサルタント|笑顔商店

鹿児島の芋焼酎は、300年前の地域イノベーションだった

——外から来たものが、風土と出会い、伝統になるまで

最近、焼酎の炭酸割にはまっている。

少し前までは、ハイボールをよく飲んでいた。
ハイボールは、ウイスキーの炭酸割である。

炭酸の爽快感があり、食事にも合わせやすい。
脂っこい料理にも合うし、居酒屋でも頼みやすい。
一時期、私にとって「とりあえずハイボール」はかなり自然な選択だった。

ただ、ふと思った。

せっかく飲むなら、日本の地域産業や中小企業に少しでも貢献できるものを選びたい。

もちろん、ウイスキーが悪いという話ではない。
国産ウイスキーにも素晴らしいものはたくさんある。
ただ、飲食店でよく見かけるウイスキーの多くは海外産であり、国産ウイスキーは近年価格が高く、置いていない店も少なくない。

それなら、同じ蒸留酒であり、日本各地に蔵元がある焼酎を炭酸で割って飲んでみたらどうだろう。

たかが一杯かもしれない。
しかし、その一杯をどこに向けて使うかで、お金の流れは少し変わる。

そんな軽い気持ちで試してみた。

すると、これが思った以上においしかった。

いわゆる甲類焼酎ではなく、乙類焼酎。
つまり、米焼酎、麦焼酎、芋焼酎のように、原料の個性が残っている本格焼酎である。

炭酸で割ると、焼酎の香りがふわっと立ち上がる。

芋焼酎には、芋焼酎の甘さとふくらみがある。
麦焼酎には、麦焼酎の香ばしさと軽やかさがある。
米焼酎には、米焼酎のやわらかさと上品さがある。

私は料理に合わせて飲むことが多い。

味の濃い料理や脂のある料理には、芋焼酎が合う。
焼き鳥や揚げ物、香ばしい料理には、麦焼酎が合う。
和食や刺身、あっさりした料理には、米焼酎が合う。

もちろん、厳密な決まりがあるわけではない。
その日の気分でよい。
ただ、料理によって焼酎を変えてみると、同じ炭酸割でもずいぶん印象が変わる。

そんなふうに飲んでいるうちに、ふと疑問が湧いた。

米焼酎、麦焼酎、芋焼酎。
いったい、どれが一番古いのだろうか。

普段、焼酎を飲むときに、そこまで考える人は少ないかもしれない。
しかし、調べてみると、これが思った以上に面白かった。

今では、鹿児島といえば芋焼酎という印象が強い。

鹿児島の居酒屋に行けば、当然のように芋焼酎が並んでいる。
鹿児島土産といえば、芋焼酎を思い浮かべる人も多いだろう。
全国的にも、「芋焼酎=鹿児島」というイメージはかなり強い。

だから私は、なんとなく昔から鹿児島ではさつまいもが作られ、昔から芋焼酎が造られていたのだと思っていた。

しかし、どうもそうではないらしい。

鹿児島には、もともと焼酎文化があった。
ただし、最初から芋焼酎だったわけではない。

古くは、米を原料にした焼酎が造られていたとされる。
米焼酎である。

ところが、鹿児島は米が豊富にとれる土地ではなかった。
火山灰由来のシラス台地が広がり、水持ちがよくない土地も多い。
水田に向いている地域ばかりではなかった。

米は、主食である。
そして昔は、年貢や経済の中心でもあった。
その貴重な米を使って酒を造るというのは、今の私たちが想像する以上に大きなことだったはずである。

焼酎を造る技術はある。
酒文化もある。
しかし、原料となる米が十分ではない。

これは、地域にとって大きな制約である。

普通に考えれば、そこで不利になる。

「鹿児島は米が少ないから、米焼酎では勝てない」

そう考えてもおかしくない。

ところが、歴史はそこから面白い方向へ進む。

約300年前、琉球から鹿児島にさつまいもが伝わったとされる。

さつまいもは、もともと鹿児島にあった作物ではない。
外から入ってきた作物である。

今の感覚では、鹿児島とさつまいもは切っても切れない関係に見える。
しかし、最初は外来の作物だった。

ここが面白い。

外から来たものが、鹿児島の風土に合ったのである。

さつまいもは、米ほど多くの水を必要としない。
痩せた土地でも育ちやすい。
火山灰土壌にも比較的強い。
台風や干ばつにも、米より対応しやすい面があった。

つまり、鹿児島にとってさつまいもは、単なる新しい作物ではなかった。

鹿児島の弱点を補う作物だった。

米がとれにくい。
土地がやせている。
水田に向かない場所がある。
そうした制約の中で、さつまいもは力を発揮した。

しかも、さつまいもは食料にもなる。
飢饉対策にもなる。
庶民の命を支える作物にもなる。

そして、焼酎の原料にもなった。

ここで、鹿児島の中にすでにあった焼酎づくりの技術と、外から来たさつまいもが結びつく。

その結果、生まれたのが芋焼酎である。

考えてみると、これはすごいことである。

単に、米の代わりに芋を使っただけではない。

米が少ないという弱点。
さつまいもが育ちやすいという土地の特性。
すでにあった焼酎づくりの技術。

これらが結びついて、まったく新しい地域文化が生まれた。

これは、まさに地域イノベーションではないだろうか。

イノベーションというと、どうしてもAIやロボット、半導体のような最先端技術を思い浮かべてしまう。

しかし、本来の意味のイノベーションとは、最先端技術そのものを指す言葉ではない。

異なるものを組み合わせ、新しい価値を作ること。

そう考えると、鹿児島の芋焼酎は、まさに地域イノベーションだったと言える。

鹿児島の芋焼酎でいえば、

米が少ないという制約。
琉球から来たさつまいも。
すでにあった焼酎づくりの技術。

この三つが組み合わさった。

その結果、単なる米の代用品ではなく、鹿児島独自の酒文化が生まれた。

最初から鹿児島にさつまいもがあったわけではない。
最初から芋焼酎が鹿児島の伝統だったわけでもない。

外から来た作物が、鹿児島の風土と出会った。
そして、もともとあった焼酎文化と結びついた。
その結果、今では鹿児島を代表する伝統になった。

つまり、伝統とは、最初から伝統だったわけではない。

ある時代の誰かが、新しいものを受け入れ、試し、工夫し、育てた。
それが長い時間をかけて、人々の暮らしに根づいた。
そして、後の時代の人がそれを「伝統」と呼ぶようになった。

そう考えると、伝統とは、過去のイノベーションの積み重ねなのかもしれない。

芋焼酎も、最初は異端だった可能性がある。

米で造る焼酎に慣れていた人からすれば、芋の香りは独特だったはずである。
味も違う。
香りも違う。
原料も違う。

もしかすると、最初は「こんなものが焼酎なのか」と思った人もいたかもしれない。

しかし、それでも鹿児島の土地に合っていた。
鹿児島の暮らしに合っていた。
鹿児島の食文化に合っていた。

だから残った。
そして磨かれた。
やがて、鹿児島らしさそのものになった。

ここに、現代の地域づくりや企業経営への大きなヒントがあると思う。

地域には、必ず制約がある。

人口が減っている。
若者が出ていく。
後継者がいない。
人手が足りない。
原材料が高騰している。
昔のように売れない。
市場が縮小している。

地方の中小企業や地域産業を見ていると、こうした課題は本当に多い。

しかし、制約があるから終わりなのではない。

鹿児島にとって、米が少ないことは制約だった。
しかし、その制約があったからこそ、さつまいもという外来の作物を本気で受け入れたのかもしれない。
そして、それを焼酎文化と結びつけた。

もし鹿児島で米が豊富にとれていたら、芋焼酎はここまで発展しなかったかもしれない。

そう考えると、制約は必ずしも悪ではない。

制約があるからこそ、新しい組み合わせを探す。
制約があるからこそ、外から来たものを受け入れる。
制約があるからこそ、その地域にしかない価値が生まれる。

現代でいえば、AIやロボット、外部人材のような新しい技術や知恵がある。
一方で、地域の中には、食材、自然、歴史、文化、伝統技術といった観光資源や産業資源がある。

これらは、ただ導入すればよいものではない。

鹿児島に入ってきたさつまいもがそうだったように、外から来たものは、その地域の風土や課題に合って初めて根づく。

AIを導入しても、自社の仕事の流れに合っていなければ定着しない。
ロボットを入れても、現場の人が使いこなせなければ意味がない。
外部人材を呼んでも、地域の文化と接続できなければ一過性で終わる。

また、地域資源も、ただ「昔からあるもの」として残すだけでは価値が広がりにくい。
食材、自然、歴史、文化、伝統技術も、現代の暮らしや市場と結びついて初めて、新しい価値になる。

大切なのは、外から来たものをそのまま真似ることではない。

自分たちの風土に合わせて再編集することである。

鹿児島は、さつまいもをただ栽培しただけではなかった。
それを食料にし、暮らしに取り入れ、焼酎の原料にし、産業にし、文化にした。

外来の作物を、地域の文脈に合わせて育て切ったのである。

ここが素晴らしい。

単なる代用品で終わらせなかった。

米の代わりに芋を使った。
それだけなら、もしかすると「仕方なく作った酒」で終わっていたかもしれない。

しかし、芋焼酎は米焼酎の劣化版にはならなかった。

芋焼酎には、芋焼酎にしかない香りがある。
芋焼酎にしかない余韻がある。
芋焼酎にしかない食との相性がある。

そして今では、鹿児島を代表するブランドになっている。

これは非常に大事な視点である。

地域イノベーションは、単なる代替では弱い。

「人が足りないからAIを使う」
「売上が落ちたからネット販売をする」
「市場が縮小しているから新商品を作る」

もちろん、それ自体は悪くない。
しかし、それだけでは代替や穴埋めで終わる。

本当に大事なのは、その先である。

AIを使うことで、その会社らしい価値がどう高まるのか。
ネット販売をすることで、その地域の商品がどのような物語を持つのか。
新商品を作ることで、どのような新しい中核商品が生まれるのか。

単なる穴埋めではなく、新しい価値に変える。
そこまでいって初めて、地域イノベーションになる。

鹿児島の芋焼酎は、それを300年前にやっていたのだと思う。

米が少ない。
だから不利だ。

そこで終わらなかった。

さつまいもがある。
この土地で育つ。
これを焼酎にできないか。

そう考え、試し、磨き、受け継いできた人たちがいた。

その結果、芋焼酎は鹿児島の象徴になった。

私はこの話を知って、焼酎の炭酸割が少し違って見えるようになった。

ただの酒ではない。
そこには、土地の制約がある。
外から来た作物がある。
それを受け入れた人々の工夫がある。

グラスの中に、300年の地域イノベーションが入っている。

もちろん、難しく考えながら飲む必要はない。
おいしければ、それでいい。

ただ、何気なく飲んでいるものの背景に、こうした歴史があると知ると、楽しみ方が少し変わる。

芋焼酎は、最初から鹿児島にあったわけではない。
外から来たさつまいもが、鹿児島の風土に合った。
そして、焼酎文化と結びつき、やがて伝統になった。

伝統とは、守るだけのものではない。
かつて誰かが、変化を受け入れた結果でもある。

今夜もまた、料理に合わせて焼酎を選ぶ。
芋にするか、麦にするか、米にするか。

その一杯の向こう側に、地域の歴史が見える。

そう思うと、焼酎の炭酸割は、ただの晩酌ではなくなる。
少しだけ、日本の地域が持つ底力を味わう時間になるのである。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役