Grabを使って考えた日本の地方交通と観光~移動できる町をどうつくるか

今回のマレーシア旅行で、私は初めてGrabを利用した。

空港からホテルまでは、空港の受付で申し込む送迎車で301リンギット。

その後、同じく約1時間かかるホテルから空港までGrabを使うと、料金は130リンギットほどだった。

同じような距離を、半額以下で移動できた。正直、かなり衝撃だった。

けれども、この記事で書きたいのは、海外の配車アプリが安かったという話だけではない。

Grabと空港タクシーを使い比べるうちに、日本の配車アプリとの構造の違いが見えてきた。

そこから考えていくと、地方観光、高齢者の移動、若者の仕事、町づくりまで、すべてが交通によってつながっていることに気づいた。

最初は空港タクシーを選んだ

クアラルンプール国際空港に着いたとき、私はGrabの使い方をまだよく分かっていなかった。

初めて来た国で、長い移動の直後でもある。

そこで、空港の受付で行き先を伝え、事前払いの送迎車を利用した。

ホテルまでは約1時間。

料金は301リンギットだった。

1リンギットを40円弱と考えると、およそ1万2,000円である。

マレーシアの物価から見れば高いが、日本で同じ距離と時間をタクシーに乗ることを考えれば、決して法外ではない。

車も高級車で、後部座席には肘掛けがあり、ゆったり移動できた。

何よりよかったのは、受付でホテル名を確認してもらい、用意された車に乗ればよかったことだ。

海外旅行では、言葉への不安に加えて、空港のどこから乗ればよいのか分からない不安もある。

到着直後は、普段なら簡単にできることでも頭が回らない。

後からGrabの料金を知ると、確かに差は大きかった。

それでも、最初の301リンギットを失敗だったとは思わない。

初めての土地で安全にホテルへ着くための保険と考えれば、十分に価値があった。

Grabなら半額以下になることもあった

その後、ホテルから空港へ向かうときにGrabを使った。

料金は130リンギットほどだった。

別の利用時には150リンギット、180リンギットということもあり、時間帯や車の状況によって価格は変わる。

それでも、301リンギットと比べれば圧倒的に安い。

使い方は、一度覚えれば難しくない。

クレジットカードを登録し、行き先と出発地を指定する。

料金と車の種類を選ぶとドライバー探しが始まり、決まれば名前、車のナンバー、利用者からの評価が画面に表示される。

地図上で車が近づく様子も確認できる。

注意したいのは、アプリが指定する乗車場所が、自分の立っている場所と同じとは限らないことだ。

空港や大型施設では車を停められる場所が決まっており、指定された場所まで移動しなければならないことがある。

アプリの地図や写真をよく見ておかないと、車が近くまで来ているのに出会えない。

乗車後は行き先を確認し、目的地に着いたら降りる。

料金は登録したカードで自動決済されるので、現金を渡す必要はない。

この手軽さは大きかった。

クアラルンプールでGrabを待っていたとき、日本人の高齢のご夫婦から声をかけられた。

ご夫婦は配車アプリそのものを初めて使うようで、操作にはまだ慣れていなかった。

それでも、「降りるときに、その場で精算しなくてよいので便利ですね」と話していた。

海外では、見慣れない紙幣や硬貨を使うため、精算に時間がかかり、金額を間違えることもある。

その場で財布を出さずに済むカード決済は、特に旅行者にはありがたい。

これは、日本を訪れる外国人にとっても同じではないだろうか。

移動サービスの便利さには、車を呼びやすいことだけでなく、支払いで迷わないことも含まれる。

便利さの裏側には自己責任もある

Grabは、私が使った範囲では安心できるサービスだった。

ただし、初めて海外へ来た人に、到着直後から必ずGrabを勧めるかといえば、そうではない。

便利な分、自分で正しく入力し、画面を確認する必要があるからだ。

行き先を間違えれば、ドライバーは入力された場所へ向かう。

乗車場所を勘違いし、車と出会えないこともある。慣れない空港で焦っていると、英語や地図を落ち着いて確認できない場合もある。

だから、不安が大きい人は、最初の移動だけ空港タクシーを利用してもよいと思う。

ホテルに着いて落ち着いてから、まず短い距離でGrabを使ってみる。

その方がトラブルは少ない。

安さと安心のどちらを選ぶかは、そのときの自分の状態と場面で決めればよい。

日本の配車アプリとは構造が違う

Grabを使いながら、以前アメリカでUberに乗ったときのことを思い出した。

一般の人や地域にある車が、アプリを通じて移動サービスの供給側に加わる。

既存のタクシーとは別の選択肢が生まれ、移動の仕組みそのものが変わっていく。

日本にもUberやGOなどの配車アプリがあり、タクシーは呼びやすくなった。

しかし、私が利用して感じるのは、必ずしも安くならないことだ。

多くは既存のタクシーをアプリで呼ぶ仕組みで、300円、400円といった迎車料金が加わることもある。

アプリが便利になっても、運ぶ主体と料金の構造が変わらなければ、利用者の負担は増える場合がある。

現在の日本には、タクシー事業者の管理下で一般ドライバーと自家用車を活用する日本版ライドシェアと、自治体やNPOなどが交通空白地で担う公共ライドシェアがある。

制度は少しずつ動いている。

ただ、評価すべきなのは、アプリを導入したかどうかではない。

移動手段が本当に不足している地域に、新しい供給を生み出せたかどうかだと思う。

必要な地域ほどサービスが届かない

日本で最も困っているのは、都市部より地方ではないだろうか。

都市部では駅前にタクシー乗り場があり、配車アプリも使える。

一方、地方へ行くと、そもそもタクシーの台数が少なく、アプリを開いてもエリア対象外のことがある。

必要性が比較的低い場所では便利になり、本当に必要な場所にはサービスが届かないという逆転が起きている。

ある町では、バスが1時間に1本しかなかった。

タクシーもほとんどない。

地元の人は自家用車で移動できても、観光客や里帰りした人が同じように車を使えるとは限らない。

しかも、そのバスでは安全上の理由から立って乗ることを認めず、座席が埋まると乗車できなかったという。

乗れなければ、次のバスまでさらに1時間待つことになる。

安全を守ることは当然であり、運転手不足の中で本数を増やすのも簡単ではない。

しかし、利用者には目的地へ行けないという結果だけが残る。

ここにGrabのような仕組みがあれば、バスに乗れなかった人が別の手段を選べる。

バスと地域版Grabは、競合するものではないと思う。

バスは多くの人を決まった経路で安く運ぶ幹線であり、配車サービスは必要な時間に必要な場所をつなぐ枝線である。

鉄道や高速バスでハブ駅、港、空港まで行き、そこからホテル、温泉、飲食店、観光施設へ地域の車でつなぐ。両方がそろって初めて、町の中を無理なく回れる。

旅行は家を出た瞬間から始まっている

私は、旅行は目的地に着いてから始まるものではないと思っている。

家を出た瞬間から旅行は始まっている。鉄道に乗ることも、空港からホテルへ向かうことも、現地で次の場所へ移動することも、すべて旅行体験に含まれる。

魅力的な温泉や美しい自然、おいしい料理があっても、移動が不便で、長時間待たされ、行きたい場所を諦めることになれば、次も行こうとは思いにくい。

観光客を呼ぶときは施設やイベントに目が向きやすいが、リピートを左右するのは、町の中を快適に移動できたかどうかかもしれない。

以前、ある町の関係者から、観光客を増やすにはどうすればよいかと相談を受けた。

私が最初に尋ねたのは、観光客の足があるかということだった。

十分な移動手段がなかったため、当時知っていたバス運行会社につないだ。

人が来る方法と町の中を回る方法ができると、地域の発展につながっていった。

どれほど魅力があっても、行けなければ存在しないのと同じなのである。

そのご夫婦との会話で思い出したのが、以前、日本の別の観光地でタクシーに乗ったときのことだ。

そのタクシーはクレジットカードに対応しておらず、現金でしか支払えなかった。

都会では、特に若い世代を中心に、現金をほとんど持ち歩かない人も増えている。

海外から来た旅行者も、GrabやUberのように、アプリに登録したカードで支払うことに慣れている。

その地域では、行政が観光施策として、空港からの移動料金を割り引くキャンペーンを行っていた。

ところが、せっかく観光客を呼んでも、現地のタクシーが現金でしか支払えない。

入口では割引して呼び込みながら、到着後の移動で不便を感じさせていては、本末転倒ではないだろうか。

観光客の足を考えるなら、車の台数だけでなく、予約や決済のしやすさまで含めて整える必要がある。

特に日本では、高齢者が観光の重要な担い手になる。

時間があり、旅行にお金を使える人も多い。

一方、高齢になれば長距離運転は負担になり、安全のために車を運転しない方がよい場合もある。

海外からの旅行者にも、日本で車を運転しない人は多い。

地方観光を本気で伸ばすなら、車を運転しない人が快適に回れる設計を、最初から町づくりに入れなければならない。

最初の実証は離島からできないか

そこで考えたのが、日本版Grabのような地域の配車サービスである。

既存のタクシーが多い地域では、事業者との調整が難しいかもしれない。

それなら、まず離島で試してはどうだろう。

離島は移動手段が限られ、タクシーの台数も少ない。

行政には観光客を増やしたいという思いがあり、住民にも通院や買い物の足が必要である。

課題と需要が見えやすいため、実証に向いている。

港や空港を入口にし、観光地、宿泊施設、集落、病院、商店をアプリでつなぐ。

利用者は事前に料金を確認し、ドライバーの名前や車両を見てから乗る。

行政は本人確認、保険、車両点検、運行管理、苦情対応の基準を整える。

最初から全国一律の巨大な仕組みをつくらず、範囲を限定した地域で安全性と採算性を確かめればよい。

この仕事は、地域の若者の雇用にもなり得る。

本当は地元に残りたいのに、仕事がないため仕方なく出ていく若者もいるだろう。

勉強は得意ではなくても車の運転が好きで、地元のじいちゃん、ばあちゃんと話すことが好きな若者がいるかもしれない。

観光客や住民を運ぶ仕事は、自分の得意なことを生かしながら地元に残る選択肢になる。

人口が少なく需要の読めない地域では、民間企業に最初から採算を求めても参入しにくい。

立ち上げ時は地方公共団体が主導し、国の支援制度や実証事業などを使って需要を確かめる。

利用が増え、運行データが蓄積し、事業として回ると確認できた段階で民間へ運営を渡していく。

行政が永遠に抱えるのではなく、民間が参入できるところまで最初の道をつくるのである。

交通を町づくりの中心に置く

国土交通省も、住民の地域の足と、駅や空港などから先の観光の足を「交通空白」と捉え、日本版ライドシェアや公共ライドシェアを含む対策を進めている。

問題そのものは、すでに認識されている。

次に必要なのは、既存の制度に合わせてできることだけを探すのではなく、住民と旅行者が実際に移動できる状態から逆算して、仕組みを組み立てることだと思う。

一つの離島で便利な仕組みが動き、旅行者が「こんなサービスがあるなら、また来たい」と感じれば、その評判は広がる。利用した人が、自分の町にも欲しいと言い始めるかもしれない。

新しい交通を広げる力になるのは、行政の説明だけではなく、便利さを体験した人の声である。

日本が観光立国を目指すなら、観光施設の数だけを増やしても足りない。

人手不足でタクシーもバスも減っている今こそ、地域にある車と人を安全に生かし、必要なときに移動できる仕組みをつくる必要がある。

交通は、出来上がった町を後から支える設備ではない。

ホテル、飲食店、温泉、商店、病院、住民の暮らしを結び、一つの町として機能させる土台である。

マレーシアでGrabを使った衝撃は、料金が半額以下になったことだけではなかった。

地域にある車と人を移動の供給側に加える発想を、日本で最も困っている地域へ持ち込めないだろうか。

地方を発展させたいという本気度は、誰もがそこへ行き、自由に回り、安心して帰れる仕組みに表れると思う。

振り返れば、私のマレーシアの旅は、Grabがあったから快適だったと言っても過言ではない。

空港とホテルの往復だけでなく、行きたい場所へ行きたいときに移動でき、支払いにも迷わなかった。この安心感が、旅全体を支えていた。

マレーシアでGrabを使った衝撃は、料金が半額以下になったことだけではなかった。地域にある車と人を移動の供給側に加える発想を、日本で最も困っている地域へ持ち込めないだろうか。

地方を発展させたいという本気度は、誰もがそこへ行き、自由に回り、安心して帰れる仕組みに表れると思う。