ヒットを一度で終わらせない VIVANTのリピート設計

情報があふれ、人の価値観も多様化している。何が話題になり、何が大ヒットするのかを事前に見抜くことは、以前より難しくなった。

だからこそ、企業にはもう一つの視点が必要になる。一度生まれたヒットを、どのように次の商品や体験へ広げるか。話題になったときに人を集め、その人たちにもう一度来てもらう仕組みをつくれるかという視点である。

2023年に放送された日曜劇場『VIVANT』は、高い視聴率を記録し、一つの社会現象を起こしたといってもよい作品だ。その世界を体験できる「VIVANT IMMERSIVE MISSION」が東京・京橋で開催されていると知り、行ってみた。

正直に言えば、体験そのものは「ものすごく面白かった」というほどではない。感想を一言で表すなら、「まあまあ面白かった」というところだ。それでも、東京に住んでいたら、公安や別班でもう一度挑戦していたと思う。そこに、このイベントの商売としての巧さがある。

見るドラマを参加する体験に変える

ヒットドラマの横展開といえば、映画化、続編、関連グッズの販売などが一般的だ。これらは、すでに作品を知っているファンに向けた展開になりやすい。

一方、体験型イベントには別の入口をつくる力がある。ドラマを見ていなくても、謎解きやミッション、適性診断に興味を持つ人はいる。家族や友人に誘われて参加し、そこで初めて『VIVANT』の世界に触れる人もいるだろう。

実際のミッションは、『VIVANT』を見ていない人でもゲームとして十分に楽しめる内容だった。作品からイベントへ広げるだけではない。イベントに参加した人が登場人物や組織に興味を持ち、その後にドラマを見るという逆方向の流れもつくれる。

『VIVANT』ほどのヒット作でも、視聴率は十数%から二十%前後であり、誰もが見ていたわけではない。既存ファンからさらに売上を得るだけでなく、作品を知らなかった人を新しいファンに取り込めることが、体験型イベントの大きな意味だと思う。

世界観を薄めない本気度

会場には、ドラマのロケで使われた部屋を再現した空間があり、小道具や衣装も展示されていた。一部は写真撮影もできる。単に『VIVANT』の名前を使った謎解きイベントではなく、ドラマの世界に入ったように感じさせるところまで丁寧につくられている。

さらに、ミッションの指令を出すのもドラマの登場人物たちだ。テントではノコル、新庄、アリ、別班では乃木を中心に、公安では野崎を中心にミッションが進んでいく。ドラマを演じた登場人物がイベントにも関わっているため、後からつくられた便乗企画という印象がない。制作側の本気度が感じられ、ファンであればそれだけでも楽しい。

ヒット作品を横展開するとき、名前や写真を貸すだけではファンは見抜く。元の作品と同じ登場人物やセット、小道具まで使い、世界観の質を落とさない。別の商品にもお金を払ってもらうには、この本気度が必要なのだろう。

一度の入場で選べるコースは一つ

このイベントでは、最初に「別班」「公安」「テント」「ドラムの仲間探し」という四つのコースから一つを選ぶ。自分に向いている組織を先に判定してもらうのではない。まず自分で所属したい組織を選び、その組織のミッションに挑戦した結果として、適性が判定される。

一度の入場で選べるのは一つだけだ。私はテントを選んだ。ドラムの仲間探しは比較的やさしいコースらしいが、私は最初からテント、別班、公安のどれかにしようと思っていた。

一つしか選べないことは、一見すると不親切にも見える。しかし、商売の仕組みとして考えると、ここがうまい。すべてを一度に体験させないことで、「別のコースなら、どんなミッションが出るのだろう」という興味を残している。

アプリに導かれて四つの部屋を進む

受付を済ませると、QRコードを読み込み、専用アプリをダウンロードする。入口では係員から説明があるが、その後は基本的にアプリの指示に従い、自分でミッションを進めていく。イヤホンは必須で、自分のイヤホンを使って登場人物からの指令を聞く。

最初にコースを選択すると、その後は選んだコースに応じたミッションが与えられる。参加者は四つの部屋を順番に進み、最初の三つの部屋で、それぞれ出されるお題を解いていく。時間制限がある問題もあれば、ない問題もある。

一つの部屋で回答を終えると、次の部屋へ進む。ただし、後戻りはできない。後になって「あの判断は間違っていたかもしれない」と思っても、やり直すことはできない。この一方通行の仕組みが、一つ一つの判断に緊張感を生んでいる。

テントのミッションでは、決断力、判断力、探索力、記憶力などを試された。決断は早ければよいというものではない。引っ掛けも多く、考えすぎてもいけないが、反射的に答えてもいけない。

私は最初の部屋で、早々にしくじってしまった。素早く決めた方がよいと思って回答したが、どうやら早く決めればよいという問題ではなかった。その時点で、最後の判定はかなり低いだろうと思った。

最後に待つAIハヤトの判定

四つ目の部屋は「AIハヤトの部屋」だ。最初の三つの部屋での回答から、決断力や判断力などが分析され、選んだコースに対する適性が判定される。

私のテントとしての適性は60点だった。最初の部屋で失敗していたので、予想していたよりも案外高かった。しかも評価は「新庄並み」。

「私は新庄並みなのか?」

少し意外だったが、単に60点と表示されるより、ドラマの登場人物と比較される方が結果は印象に残る。点数が低ければ悔しくなり、高ければ誰かに話したくなる。別のコースなら、自分にどんな評価が出るのかも気になる。診断結果そのものが、口コミと再挑戦のきっかけになる。

人によって異なる再訪の理由

このイベントは、参加する人の性格によって、違う再訪理由が生まれるようにつくられている。

負けず嫌いな人なら、もっと高い点数を取りたいと思うだろう。一度経験すれば問題の考え方や会場の進み方が分かるので、二度目は点数が上がるかもしれない。ただし、同じ問題に慣れてしまえば、初回の緊張感は薄れる。それでも、前回の点数を超えたいという気持ちは残る。

好奇心が強い人なら、同じコースの再挑戦より、テント、公安、別班をそれぞれ体験したいと思う。私も次に行くなら、公安か別班を選びたい。

一方、難しいことに自信がない人には、ドラムの仲間探しという比較的参加しやすい入口がある。そういう人は一人では来なくても、家族や友人と一緒なら参加するかもしれない。仲間が別のコースに挑戦する姿を見れば、次は自分もやってみようと思う可能性がある。

高得点を目指す人、別の役割を試したい人、まずはやさしい入口から入りたい人。同じ施設の中に、複数のリピート理由を用意しているのである。

点を線で結び事業の面をつくる

商売は、最初に商品という「点」をつくるだけでは終わらない。別の商品という点をつくり、二つの点を線で結び、さらに線を広げて事業の面をつくる。これは特別な理論ではなく、商売の鉄則の一つだと思う。

『VIVANT』でいえば、ドラマが最初の点であり、体験型イベントが次の点になる。ドラマを見た人がイベントへ行き、イベントで初めて作品を知った人がドラマを見る。二つの点を行き来する線ができる。

イベントはファンサービスであるだけでなく、それ自体が入場料を生む商品でもある。さらに、会場で世界観に触れた人がグッズを買い、関連する飲食を楽しみ、続編や将来の映画を見に行けば、複数の線がつながって事業の面になっていく。

ここで大切なのは、商品を増やすだけではない。一回ですべてを体験させないこと、参加者に選ばせること、初心者向けの入口も用意すること、最後に自分だけの結果を返すこと。こうした仕掛けによって、それぞれの商品を結ぶ線が生まれる。

情報が多様化した時代に、次の大ヒットを確実に当てることは難しい。しかし、一度生まれたヒットを一回で終わらせず、別の商品や体験へつなげることはできる。

今回、私はテントを体験した。感想は「まあまあ面白かった」。それでも公安や別班をやってみたいと思った。圧倒的な面白さだけに頼らず、次を知りたくさせる。その設計こそが、『VIVANT IMMERSIVE MISSION』から学べる商売のヒントではないだろうか。