90円のお釣り間違いから考えた、本当のDX

先日、リニューアルしたばかりの飲食店に行った。

食事を終えて会計を済ませ、店を出た。

10メートルほど歩いたところで、後ろから店員さんに呼び止められた。

最初は、

「何か忘れ物でもしたかな?」

と思った。

しかし、特に忘れ物をした覚えはない。

何だろうと思って店を覗くと、店員さんがレジのあたりで何やら確認している。

「呼び止められたと思ったけど、気のせいだったかな」

そう思って、再び歩き始めようとしたときだった。

店員さんがこちらへやって来て、

「お釣りを間違えていました」

と言って、90円を渡してくれた。

金額にすれば、たった90円である。

しかし私は、その対応を見て、

「良心的な店だな」

と思った。

世の中には、会計を終えたあと、

「あれ?こんなに高かったかな」

「もしかして計算を間違えていないかな」

と思うことがある。

それでも、一度支払って店を出てしまえば、そのままにする人も多いだろう。

逆に、店側が多く受け取っていたことに後から気づいても、すでに客が帰っていれば、そのままになってしまうケースもあると思う。

今回は、わざわざ店の外まで追いかけて90円を返してくれた。

それだけでも、とても誠実な対応だと思う。

ただ、私は同時に別のことも考えた。

人がやる以上、ヒューマンエラーはなくならない

その店には、接客をしている店員さんが二人いた。

私の印象では、会計を担当したのは比較的新しい店員さんで、あとから追いかけてきてくれたのは、ベテランの店員さんのように見えた。

もちろん、実際のところは分からない。

ただ、もしそうだったとすれば、新人のミスをベテランが気づいてフォローしたということになる。

しかも、私が店に入ったのはかなり早い時間だった。

ほかにお客さんはいなかった。

だからこそ、会計を見直す余裕もあり、間違いに気づいて、追いかけることもできたのかもしれない。

もしこれがランチタイムや夕食時の繁忙時間だったらどうだろう。

次々にお客さんが来て、注文を取り、料理を運び、片付けをし、会計までしなければならない。

その中で、90円の間違いに気づけただろうか。

しかも、私自身、お釣りが少なかったことにまったく気づいていなかった。

つまり今回は、たまたま店側が気づいてくれたから解決したのである。

人がやる以上、ヒューマンエラーはなくならない。

これは飲食店に限った話ではない。

本来、それぞれ違う仕事だった

そもそも、店の仕事を考えてみると、

料理を作る人、

料理を運び、お客様に対応する人、

そして会計をする人、

それぞれ役割は違う。

昔は、そうした仕事を別々の人が担当している店も多かった。

しかし、人件費の上昇や人手不足によって、一人がいくつもの仕事を兼務するようになった。

接客をしながら料理を運び、片付けをして、そのままレジへ走って会計をする。

これは飲食店だけではない。

小売、ホテル、美容、各種サービス業など、いわゆる立地型のビジネスの多くで起きていることである。

もちろん、客単価の低い店では、昔のように細かく分業することは現実的ではない。

そこは十分理解できる。

だからこそ、私は思う。

人が全部やるのではなく、機械でできる部分は、もっと機械に任せた方がいいのではないか。

接客と会計、どちらが店を繁盛させるか

もちろん、接客も会計も大切である。

会計を間違えていいわけではない。

しかし、仮に二人の従業員がいたとする。

一人は計算が非常に得意で、ミスもほとんどない。

しかし、接客はあまり得意ではない。

もう一人は計算が苦手で、時々ミスをする。

しかし、お客様との会話がとても上手で、感じがよく、

「あの人がいるから、またこの店に来たい」

と思わせる力がある。

BtoCの店で、どちらが売上に大きな影響を与えるだろうか。

私は、接客力の高い人だと思う。

もちろん両方できれば一番いい。

しかし、人には得意不得意がある。

ところが会社では、できていることより、できていないことの方が目につきやすい。

100人のお客様を笑顔にしていたとしても、会計を何度か間違えると、

「あの人はミスが多い」

という評価になってしまうことがある。

本人も、

「また間違えたらどうしよう」

と萎縮する。

場合によっては、周囲から馬鹿にされたり、陰で笑われたりするかもしれない。

特にお客様からの評判が良ければ良いほど、内部で妬みが生まれることだってある。

上司からも、

「お客様受けはいいけれど、ミスが多い」

と評価されるかもしれない。

しかし、本当にそれでいいのだろうか。

苦手を直す前に、会社が考えること

計算が苦手なら、計算ができるように教育する。

ミスが多ければ、注意する。

もちろん、それも必要なことはある。

しかし、今は多くのヒューマンエラーをシステムによって防げる時代である。

POSレジ、自動釣銭機、キャッシュレス決済、注文システム。

人が頭の中で計算しなくても、正確に処理できる仕組みはいくらでもある。

だったら会社が考えるべきなのは、

「なぜこの社員は間違えるのか」

ということだけではない。

「この社員が苦手な仕事を、そもそもしなくて済む仕組みにできないか」

という視点ではないだろうか。

接客が得意な人なら、接客で最大限力を発揮してもらう。

計算や事務処理は、できる限りシステムに任せる。

そうすれば本人も萎縮せず、お客様の前でのびのびと仕事ができる。

それは本人のためだけではない。

結果的に店の売上やリピートにもつながっていく。

DXの前に、社員の強みを知る

ここで重要になるのが、

「そもそも、うちの社員の本当の強みは何なのか」

ということである。

システムを導入することだけがDXではない。

何を機械に任せ、何を人に残すのか。

その判断をするためには、まず人を知らなければならない。

特にBtoCでは、対人能力は非常に重要である。

話すのが上手い人。

聞くのが上手い人。

自然に場を明るくできる人。

相手の気持ちを察するのが得意な人。

親しみやすい人。

安心感を与える人。

一口に「接客」と言っても、そこにはいろいろな強みがある。

私は運命學を学んでいるが、人の対人傾向を見る際には、生まれた干支、特に十二支も重要な要素になると考えている。

もちろん、それだけですべてを決めるわけではない。

しかし、その人がどのような形で人と関わると力を発揮しやすいのかを見る一つの材料にはなる。

重要なのは、その人を「何ができないか」で見るのではなく、

「何なら、この人は人より自然にできるのか」

を見ることである。

人の弱みを機械で補い、強みを人に任せる

今回、90円を返すために店の外まで追いかけてくれた店員さんの対応は素晴らしかった。

だからこそ、私はその店に好印象を持った。

しかし本当は、90円を返すために追いかけなくてもいい仕組みになっていた方がいい。

ベテランが新人のミスを見つけて修正する。

それも素晴らしいことである。

しかし、

ベテランが見ていなくてもミスが起きにくい仕組みの方が、会社としてはもっと強い。

DXとは、人を機械に置き換えることではない。

人件費を削減することだけでもない。

人の苦手なところを機械が補い、人は人にしかできない仕事に集中する。

そして社員一人ひとりが、自分の強みを発揮しながら、のびのびと働ける環境をつくる。

その仕組みを、本気で会社が考えること。

それこそが、これからのDXに必要な視点なのではないか。

90円のお釣り間違いから、そんなことを考えた。