成功者とは何か? メイ・マスクの講演で考えたこと
先日、メイ・マスクさんの講演を聞く機会があった。
彼女には3人の子どもがいる。
TeslaやSpaceXで知られるイーロン・マスク、飲食・食農分野で活躍するキンバル・マスク、映画プロデューサーとして活躍するトスカ・マスク。
3人とも、それぞれ異なる分野で成功を収めている。
そんな子どもたちを育てた彼女には、どのような考え方や生き方があるのだろうか。成功の秘訣のようなものがあるなら、ぜひ知りたいと思っていた。
以前、彼女の著書を読んだこともあり、今回、実際にお話を聞けることを楽しみにしていた。
講演はインタビュー形式で行われた。詳しい内容は守秘義務があるため紹介できないが、実際に彼女を見て感じたのは、とても優しく、相手への配慮ができる人だということだった。
そして、質問コーナーでのやり取りなどを通じて、私の中に一つの疑問が浮かんだ。
そもそも、成功者とは何だろうか。
お金持ちなら成功者なのか
一般的に、成功者といえば、お金持ち、有名人、社会的地位の高い人などを思い浮かべる。
大きな会社を経営している人、莫大な財産を築いた人、多くの人から尊敬されている人。そうした人たちは、世間から成功者と呼ばれることが多い。
しかし、どれほどお金を持っていても、人間関係のトラブルに悩まされ、嫌な仕事を続けなければならないとしたら、本当に成功者といえるのだろうか。
例えば、大きな会社の経営者になり、年収が何千万円、何億円になったとしても、毎日ストレスを抱え、付き合いたくない人と付き合い、やりたくない仕事を続けているとしたらどうだろう。
反対に、それほどお金を持っていなくても、生活に困らず、好きな人たちに囲まれ、自分の人生に満足している人がいる。
その人は成功者ではないのだろうか。
もちろん、お金は大切だ。生活を豊かにし、選択肢を増やしてくれる。
しかし、お金を持っていることと、幸せであることは必ずしも同じではない。
考えてみると、他人が評価する成功と、自分自身が感じる成功は、まったく違うものなのかもしれない。
成功者だから仕事を選べると思っていた
ずいぶん以前、アンソニー・ロビンスのセミナーに参加したことがある。
その際、アンソニー・ロビンスのチームの方から講義を受ける機会があった。
その講師は、自分がやりたい仕事を選んで引き受けられるような方だった。
そんな方が、わざわざ日本まで来て講義をしてくれている。
当時、そうした趣旨の話を聞いたことが印象に残っている。
しかし、その時の私は、その意味を十分に理解できていなかった。
「なるほど。成功してお金持ちになれば、仕事を自由に選べるようになるんだな」
そんなふうに受け取っていたのだ。
当時の私にとって、仕事を選べるというのは、十分なお金を持ち、経済的に成功した人だけに与えられる特権のようなものだった。
ところが、今はまったく逆のことを考えている。
成功したから仕事を選べるのではない。自分で仕事を選ぶ生き方をしているから、成功者になっていくのではないか。
仕事を選べるようになる日を待つのではなく、今の自分ができる範囲で仕事を選んでいく。
好きな仕事を選び、自分が本当にやりたいことに時間を使う。
それを特別なことではなく、日常の当たり前にしていく。
もちろん、生活のために仕事を選べない時期もあるだろう。
それでも、少しずつ自分の意思で選択する機会を増やしていくことはできる。
当時は理解できなかったことが、今になってようやく腑に落ちてきたのである。
実は昔からやっていたことだった
振り返ってみると、この考え方は私にとって新しいものではなかった。
以前、大手食品会社で営業に携わっていた頃、平均単価300円程度の商品を、月に約1億円以上売り上げていた。
単純計算すれば、毎月33万個以上を販売していたことになる。
もちろん、大手企業だったので、既存の販売網や取引先という基盤はあった。
しかし、だからといって、誰でも同じ売上を上げられるわけではない。
どの得意先を重点的に訪問するのか。どのお客さんとの取引を伸ばしていくのか。
そこをどう判断するかによって、売上は大きく変わってくる。
例えば、同じ1時間を使うとしても、売上を大きく伸ばせる可能性のある得意先に使うのか、それとも、ほとんど取引のない得意先に使うのか。
その積み重ねによって成果には大きな差が生まれる。
時間は誰にとっても同じだ。
すべてのお客さんに同じだけ時間を使うことはできない。
だからこそ、どこに時間とエネルギーを集中させるかを考えていた。
実は、こうした考え方は独立後もクライアントに教えてきたことだった。
経営資源には限りがある。だから、何をするかだけでなく、何をしないかを決めることが重要だ。
ところが、自分自身では、その大切さをいつの間にか忘れかけていたように思う。
取引先を絞ったら、売上が過去最高になった
ここ1〜2年、改めて自分の仕事のあり方を考えるようになった。
自分が好きな仕事、やりたい仕事に集中する。
そして、自分が提供したい価値を求めているお客さんとの仕事を大切にする。
そんな方向に少しずつ変えていった。
正直にいえば、それで売上が増えるという確信があったわけではない。
仕事を選べば、当然、引き受ける仕事は減るかもしれない。
それでも、自分が本当にやりたい仕事に集中した方が、結果的に良い仕事ができるのではないかと思った。
ありがたいことに、以前からの取引先や紹介者を通じたリピートや紹介が増え、結果として売上は過去最高となった。
それも、以前の最高記録の約2倍である。
そして、もっと面白いのは、仕事をする時間が以前より大幅に減ったことだ。
以前より仕事をする時間が少ないのに、売上は大きく伸びている。
これは、単に仕事の効率が良くなったということだけではないように思う。
自分がやりたいことと、お客さんが求めていることが、うまく一致するようになったのではないだろうか。
無理に仕事を取りに行くのではなく、自分の得意なことや、やりたいことを求めている人との縁がつながっていく。
まるで引き寄せられるような感覚さえある。
仕事を増やすのではなく、仕事を選ぶ。
その結果、経済的にも時間的にも余裕が生まれた。
もちろん、誰もが同じ結果になるとは限らない。
それでも、私自身にとっては、仕事の選び方を変えたことが大きな転機になった。
好きな仕事だからこそ、力を発揮できる
そもそも、人間は嫌なことをしているときと、自分がやりたいことをしているときとでは、発揮できる力が違うのではないだろうか。
実は、これに関連することは心理学でも研究されている。
「自己決定理論」という考え方がある。
人は、誰かに強制されて行動するよりも、自分の意思で選んで行動するときの方が、意欲や仕事への積極的な取り組みにつながりやすいというものだ。
考えてみれば、当たり前のことかもしれない。
嫌々引き受けた仕事と、自分が本当にやりたいと思って引き受けた仕事。
どちらに熱意を持って取り組めるだろうか。
どちらがお客さんのことを真剣に考え、より良い提案をしようと思えるだろうか。
私は後者だと思う。
もちろん、好きな仕事だからといって、すべてがうまくいくわけではない。
しかし、自分がやりたいと思って取り組む仕事だからこそ、工夫も生まれるし、困難に直面しても乗り越えようという気持ちになれる。
そして、そんな姿勢がお客さんにも伝わっていくのではないだろうか。
ここ1〜2年の自分自身の経験を振り返ると、仕事を選ぶようになって売上が伸びたのは、単に効率が良くなったからだけではないように思う。
自分が本当にやりたい仕事に集中することで、自分の持っている力を、より発揮できるようになったのかもしれない。
嫌なことを断れる人生
最近は、毎月のように海外へ出かけている。
新しい国や街を訪れ、初めて見るものに触れ、さまざまな人や文化に出会う。
そんな時間にワクワクする。
以前より時間の自由があるからこそ、できることでもある。
お金があっても時間がなければ、好きなときに海外へ出かけることは難しい。
反対に、時間があっても経済的な余裕がなければ、やりたいことを諦めなければならない場合もある。
そう考えると、お金も時間も、人生の選択肢を増やすためのものなのだろう。
そこで、私なりに成功というものを考えてみた。
嫌な仕事を引き受けなくていい。
付き合いたくない人と無理に付き合わなくていい。
行きたくない場所に行かなくていい。
そして、自分が本当にやりたいことを選べる。
成功とは、嫌なことを断る権利を、自分自身が持っていることではないだろうか。
もちろん、人生には責任もあれば、避けられない苦労もある。
しかし、それと自分の意思に反することを続ける人生とは違う。
自分がやりたいことであれば、多少の苦労があっても構わない。
むしろ、その苦労さえ楽しめることもあるだろう。
大切なのは、自分の人生の選択権を誰が持っているのかということだ。
そして、その選択権は、成功した後に手に入れるものではなく、日々の小さな選択の中で育てていくものなのかもしれない。
そもそも成功者になる必要があるのか
ここまで考えて、もう一つ疑問が生まれた。
そもそも、自分が成功者かどうかを決める必要があるのだろうか。
世間から成功者と呼ばれることに、どれほど意味があるのだろう。
「自分は成功した」と思った瞬間に、成長が止まってしまうような気もする。
私はまだまだ新しいことを経験したい。
知らない場所へ行ってみたい。
面白い人に出会いたい。
ワクワクするような仕事にも挑戦したい。
そして、今まで知らなかった世界をもっと見てみたい。
だから、成功者かどうかという評価には、それほど興味がないのかもしれない。
メイ・マスクさんは「今日が人生最高の日」という考え方を持っている。
今回、実際に彼女の姿を見て、その言葉を本当に生きている人なのではないかと感じた。
そして、私もそうありたいと思った。
今日が人生最高の日。
でも、明日はもっと面白いことがあるかもしれない。
来月は、今まで見たこともない景色に出会えるかもしれない。
来年は、今の自分では想像もできないような仕事をしているかもしれない。
そう考えるだけで、何だかワクワクしてくる。
成功をゴールにしてしまえば、いつかそこに到達して終わってしまう。
でも、好奇心には終わりがない。
新しいことを知りたい。体験したい。挑戦したい。
そういう気持ちがある限り、人生はこれからも面白くなっていくのではないだろうか。
成功者になりたいのではない。明日もワクワクする人生を送りたい。
今は、そんなふうに思っている。
