――SpaceXとAIから見える未来
私はテレビのニュースやワイドショーをほとんど見ない。
ニュースはどうしても「今起きた出来事」を伝えるものだからだ。
もちろん大切な役割である。
しかし私が知りたいのは、その出来事の背景にある大きな流れである。
木を見るより森を見たい。
点を見るより線を見たい。
だから私はネットニュースや企業発表、経営者本人のインタビューなどを見ながら、
「この出来事は何につながるのだろう」
と考えることが多い。
そんな中、最近イーロン・マスクのポッドキャストやインタビューを合計3時間ほど視聴する機会があった。
彼は今、AI、宇宙開発、通信、エネルギーといった未来を左右する分野の最前線にいる人物の一人である。
そのため、彼が何を見ているのかには関心があった。
その中で、私にとって非常に印象的な話があった。
それはAIについてである。
多くの人はAI競争というと、
優秀な研究者。
半導体。
ソフトウェア。
アルゴリズム。
を思い浮かべるだろう。
私もそうだった。
ところがイーロンが語っていたのは、もっと根本的な問題だった。
電力である。
彼は、中国がAI計算能力で世界を大きく上回る可能性があると語っていた。
理由は技術力ではない。
電力供給能力だというのである。
考えてみれば当たり前だ。
AIは魔法ではない。
巨大な計算機である。
ChatGPTもそうだ。
画像生成AIもそうだ。
動画生成AIもそうだ。
AIが進化するほど、膨大な計算能力が必要になる。
そして計算能力を支えるのは電力である。
私はここで初めて、
「AIの未来を決めるのは半導体ではなく電力なのかもしれない」
と思った。
中国は何を準備しているのか
そこで気になったのが中国である。
中国は近年、太陽光発電や風力発電への投資を猛烈な勢いで進めている。
広大な国土を活用し、巨大な発電設備を次々と建設している。
日本にいるとあまり実感がないが、その規模は桁違いである。
もちろん設備容量と発電量は同じではない。
課題もあるだろう。
しかし少なくとも、
「AI時代に必要となる膨大な電力を確保する」
という視点で見れば、中国はかなり先を見据えているように見える。
もしイーロンの言う通り、AI競争の本質が電力供給能力にあるならば、中国の強みは単なる技術力ではない。
その土台となるエネルギー基盤である。
私はここで一つの疑問を持った。
もしそうだとすれば、アメリカはどうするのだろうか。
なぜアメリカは従来のやり方では中国に勝てないのか
これまでアメリカは、
優秀な人材を集める。
革新的な技術を生み出す。
世界中から資本を集める。
そうやって世界の頂点に立ってきた。
しかし電力は違う。
お金だけでは増えない。
優秀な人材だけでも増えない。
発電所が必要である。
送電網が必要である。
土地が必要である。
そして何より時間が必要である。
もし中国がAI時代に必要な電力基盤を着々と整備しているのだとしたら、従来の延長線上ではアメリカは勝てないかもしれない。
私はここで初めて、イーロンの発言の重みを理解した気がした。
そして同時に、最近の世界の動きが違って見えてきた。
トランプは何を見ているのか
ここから先は私の仮説である。
もしAI競争の本質が電力供給能力にあるのだとしたら、トランプ大統領が目指しているものも違って見えてくる。
トランプ大統領が本当に守ろうとしているのは何だろうか。
私はアメリカの覇権ではないかと思っている。
もちろん軍事力も重要だ。
経済力も重要だ。
しかしAI時代において、それらを支えるのは膨大な電力である。
もし中国がその分野で圧倒的な優位性を築けば、アメリカは主導権を失う可能性がある。
だから私は、イーロン・マスクとトランプ大統領の関係にも興味を持っている。
そしてイーロンが中国訪問に同行したことにも興味を持っている。
もちろん真意は本人たちにしか分からない。
しかし私には、
「アメリカ側の次の一手を伝えに行った」
ようにも見えるのである。
もしAI競争の本質が電力供給能力にあり、従来の延長線上ではアメリカが不利になるのであれば、アメリカは全く別の土俵で勝負する必要がある。
そこで私が思い浮かべたのが宇宙である。
もちろん証拠はない。
これは私の想像である。
しかし、もし宇宙空間から膨大なエネルギーを確保できる時代が来るならば、世界の勢力図は再び塗り替えられるかもしれない。
私は中国訪問を見ながら、
「アメリカは既に次のステージへ進む準備ができたのかもしれない」
そんなことを考えてしまったのである。
ドルは石油と共に強くなった
もう一つ気になることがある。
それは通貨である。
戦後のアメリカは、石油とドルを結び付けることで圧倒的な影響力を持った。
世界中の国々は石油を購入するためにドルを必要とした。
その結果、ドルは基軸通貨としての地位を築いた。
つまりドルの強さは、アメリカの軍事力や経済力だけではない。
石油という巨大なエネルギー市場にも支えられていたのである。
では、もし世界が石油中心の時代を終えるとしたらどうなるだろう。
石油の価値が下がれば、その土台も変化する可能性がある。
私は最近のビットコインやデジタル資産を巡る動きを見ながら、
「アメリカは次の時代の通貨基盤を模索しているのではないか」
と考えることがある。
もちろんこれも仮説である。
しかしエネルギー革命が起きれば、通貨の仕組みも変わる。
エネルギーと通貨は思っている以上に深く結び付いているのかもしれない。
なぜトランプはサウジアラビアを重視するのか
私は政治評論家ではない。
だから断定するつもりはない。
しかし最近のトランプ政権の動きを見ていると、興味深いことがある。
トランプ大統領は就任後、比較的早い段階でサウジアラビアとの関係強化に動いた。
もちろんサウジアラビアは世界有数の産油国である。
しかし今のサウジは石油だけを見ているようには見えない。
AI。
宇宙。
先端技術。
未来都市。
観光。
国家そのものを次の時代へ移行させようとしているように見える。
石油で豊かになった国が、石油の次を見据えている。
私はそこに時代の変化を感じる。
イランとベネズエラは何を意味するのか
一方で、イランやベネズエラを見ていると別の景色が見えてくる。
両国とも石油資源が国家経済を支えている。
もちろん歴史も宗教も政治も絡むため単純ではない。
しかし私は考える。
もし世界が本当に次のエネルギー時代へ移行するのであれば、その影響を最も大きく受けるのは誰なのだろうか。
そして、その変化に最も抵抗したくなるのは誰なのだろうか。
歴史を振り返れば、新しい技術が生まれるたびに既存の仕組みとの摩擦は起きてきた。
AIや新しいエネルギーも例外ではないかもしれない。
SpaceXはロケット会社なのか
そんなことを考えているうちに、私は再びSpaceXに目を向けた。
私は以前までSpaceXをロケット会社だと思っていた。
もちろんそれは間違いではない。
しかし最近は少し見方が変わった。
SpaceXは宇宙へ物を運ぶ。
Starlinkは世界中を通信で結ぶ。
そしてイーロンはAIについて語る。
一見するとバラバラである。
しかし私は、
宇宙
通信
AI
エネルギー
という一つの大きな構想のようにも見えている。
もしAI時代の最大の課題が電力ならば、その電力をどこから確保するのだろうか。
本当に地上だけで足りるのだろうか。
私はそこで宇宙を思い浮かべた。
ニコラ・テスラは100年前に何を見ていたのか
ここで思い出したのがニコラ・テスラである。
彼は100年以上前に無線送電の可能性を追い求めていた。
当時は技術も資金も環境も追いつかなかった。
しかし歴史を振り返れば、時代が早すぎた技術は少なくない。
飛行機もそうだった。
ロケットもそうだった。
AIもそうだった。
当時は夢物語と笑われたものが、後の時代には常識になっている。
もし宇宙で大規模な太陽光発電が可能になり、そのエネルギーを地球へ送り続けることができるようになったらどうなるだろう。
中国が何十年もかけて築き上げた発電能力を、一気に飛び越えることができるかもしれない。
私はそこに、アメリカが再び主導権を握る可能性を見てしまう。
だからこそ、イーロンとトランプが見ている未来は、私たちが想像しているよりもはるかに大きいのかもしれない。
もちろん、これは私の想像である。
エネルギー革命が起きたら何が変わるのか
ここで私は、イーロン・マスクが語っていたパン屋の話を思い出した。
彼はフリーエネルギーが実現すると断言していたわけではない。
しかし興味深い例えをしていた。
エネルギーコストがほぼゼロになれば、小麦粉のコストもほぼゼロに近づくというのである。
最初は意味が分からなかった。
小麦粉には農地も必要だ。
肥料も必要だ。
農機具も必要だ。
輸送も必要だ。
人手も必要である。
しかし考えてみれば、そのほとんどはエネルギーによって支えられている。
肥料工場も電力で動く。
農機具もエネルギーで動く。
輸送もエネルギーで動く。
冷蔵保管もエネルギーで動く。
もしエネルギーコストが限りなくゼロに近づけば、これらのコストは大きく下がる。
さらにそこへAIロボットが加わる。
農業をロボットが行う。
工場をロボットが動かす。
物流をロボットが担う。
建設をロボットが行う。
介護や医療の一部もロボットが補助する。
すると今度は人件費も大きく下がる。
現在の商品価格の多くは、
エネルギーコストと、
人件費によって構成されている。
もしその二つが劇的に下がればどうなるだろう。
パンの価格は下がる。
家の価格も下がる。
車の価格も下がる。
水の価格も下がる。
食料の価格も下がる。
私たちが当たり前だと思っている経済の仕組みそのものが変わるかもしれない。
私はここで初めて気づいた。
イーロンが語っていたのはAIの未来ではない。
AIとエネルギーによって社会のコスト構造そのものが変わる未来だったのではないか、と。
私たちはAI革命ではなくエネルギー革命を見ているのかもしれない
ここまで考えていて、私はあることに気づいた。
もしかすると私たちはAI革命を見ているのではない。
エネルギー革命の入口を見ているのかもしれない。
中国の太陽光発電。
アメリカのAI投資。
サウジアラビアの国家戦略。
ビットコインを巡る議論。
SpaceXの挑戦。
そしてAIロボットによる労働革命。
一見すると別々に見える出来事が、実は同じ方向を向いているように見えるのである。
もちろん私の仮説が正しい保証はない。
しかし点だったニュースが線としてつながった時、世界の見え方は大きく変わる。
本当に変わるのは人間かもしれない
仮に私の仮説が正しかったとしても、それ以上に重要なことがある。
それは、
何がエネルギーになるかではなく、人間がどう生きるかである。
もしAIが働くようになったら。
もしロボットが生産を担うようになったら。
もしエネルギーがほぼ無限に近いレベルで供給されるようになったら。
私たちは何のために働くのだろう。
何のために学ぶのだろう。
何のために生きるのだろう。
これまで人類は、お金や資源の制約の中で生きてきた。
しかしエネルギー革命が本当に起きるのであれば、次に問われるのは人間そのものになる。
人とのつながり。
創造。
挑戦。
教育。
子供たちの未来。
次の世代へ希望をつなぐこと。
そういったものの価値が、今以上に大きくなるのではないだろうか。
世界は石油の時代を終えようとしているのか。
その答えはまだ分からない。
しかし一つだけ確かなことがある。
それは、世界が大きな変化の途中にあるということだ。
そして本当に問われるのは技術の進歩ではない。
その技術を手にした人間が、どのような社会を作るのかということなのだと思う。

髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役