システム化で人件費は減っても、信用まで削ってはいけない

最近、立て続けに二つのシステムトラブルに遭遇した。

どちらも最終的には解決し、金銭的な被害が発生したわけではない。

それでも、システム化が進む社会において、企業は何を備えておかなければならないのか、改めて考えさせられた。

キャンセルしたはずの予約が残っていた

一つは、ホテルの予約である。

宿泊予定日の数週間前に、アプリからキャンセル手続きを行った。アプリ上でもキャンセル済みと表示されていたため、当然、手続きは完了しているものと思っていた。

ところが、宿泊予定日が近づいた頃、ホテルから宿泊前のリマインドメールが届いた。

キャンセルしているはずなのに、なぜメールが届くのだろう。

ホテルへ電話すると、電話はすぐにつながった。

ホテル側のシステムには予約がまだ残っていたが、その場で状況を確認してもらい、キャンセルにもすぐに応じてもらえたため、ホテルの電話対応自体に不満はなかった。

ただ、今回はたまたまリマインドメールに気づいたから対応できた。

もしメールを見落としていたら、どうなっていただろうか。

キャンセルしたつもりの宿泊について、無断キャンセルとして扱われていた可能性もある。場合によっては、キャンセル料をめぐるやり取りが発生していたかもしれない。

そう考えると、少し怖い話である。

しかも、このホテルで予約に関するトラブルが起きたのは、今回が初めてではない。

予約完了メールが届いたのに、予約が入っていなかった

以前、同じホテルを予約した際には、予約完了メールが届いているにもかかわらず、予約内容がアプリ上に表示されていなかった。

予約内容を変更しようとして、そのことに気づいた。

不審に思ってホテルへ電話すると、ホテル側には予約が入っていないという。

予約完了メールは届いているのに、予約そのものは取れていなかったのである。

このときも、たまたま事前に予約を変更しようとしたため、問題に気づくことができた。

もし何も変更せず、予約できていると信じたまま当日を迎えていたら、どうなっていただろうか。

ホテルに到着してから、「予約は入っていません」と言われていた可能性もある。

一度目のトラブルの際、ホテル側は、なぜこのような問題が起きたのかを調査し、その結果も報告してくれた。

原因を確認し、顧客へ説明する。

トラブル発生後の対応としては自然であり、きちんとした対応だったと思う。

ただ、よく考えてみれば、ホテル側が原因を調査する時間も、私が電話をかけて状況を説明する時間も、その後に報告を受ける時間も、本来トラブルが起きなければ必要のなかった時間である。

ホテル側にとっても、私にとっても、余計な仕事が増えたことになる。

対応が丁寧だったからといって、トラブルによって失われた時間までなくなるわけではない。

一度であれば、偶然のシステムトラブルとして受け流せたかもしれない。

しかし、一度目は「予約できたと思っていたのに、予約が入っていなかった」。

二度目は「キャンセルしたはずなのに、予約が残っていた」。

正反対のトラブルが二度続いたことになる。

正直に言えば、「またか」と思った。

世間的には一流ホテルと呼ばれるホテルである。

だからこそ、部屋や接客の質だけでなく、予約やキャンセルを含めて、安心して任せられることを期待している。

一流ホテルの料金には、単なる宿泊代だけでなく、「このホテルなら大丈夫だろう」という信用も含まれているのではないだろうか。

今回も前回も、結果的には金銭的な被害はなかった。補償を求めようとも思わない。

しかし、次に利用するときには、予約が本当に取れているのか、キャンセルが本当に反映されているのか、自分で改めて確認した方がよいのではないかと思ってしまう。

顧客にそう思わせた時点で、企業に対する信用は少しずつ失われている。

空席があるのに、予約変更ができない

もう一つは、航空機の予約変更である。

搭乗する便を変更しようと、インターネット上のシステムから手続きを進めた。

ところが、変更しようとした便について、予約できないというメッセージが表示され、それ以上進むことができなかった。

満席なのだろうかと思い、新規予約の画面から同じ時間帯の便を確認した。

すると、座席は空いている。

新規予約では取れるのに、予約変更では取れない。

運賃条件や変更可能な座席枠など、航空会社側には何らかの事情があったのかもしれない。

しかし、利用者からすれば、空席があるのに変更できない理由は分からない。

結局、電話で変更手続きをすることにした。

ところが、電話がつながるまで30分以上待たされた。

ようやく担当者につながり、予約変更自体は無事に完了した。

仮に電話がすぐにつながっていれば、ここまで不満は残らなかったと思う。

システムで変更できなかったとしても、人がすぐに対応し、変更してくれれば、「そういうこともある」と受け流すことができる。

しかし、システムで処理できず、その代わりとなる電話にもなかなかつながらないとなると、利用者は二重に時間を奪われる。

システム化によるコスト削減の矛盾

企業が高額なシステムを導入する理由の一つは、業務を効率化し、将来にわたる人件費を削減することにある。

予約受付、変更、キャンセル、決済、在庫管理、顧客管理などを自動化できれば、長期的には大きなコスト削減が期待できる。

正常に機能している間は、企業にとっても顧客にとっても便利である。

問題は、システムが止まったときである。

システムが処理できなくなれば、それまで自動化されていた仕事を、人が対応しなければならない。

しかし、システム導入によって人件費を削減している以上、障害時のためだけに多くの人員を配置している企業は少ないだろう。

いつ起きるか分からないトラブルに備えて、常に十分な人数を待機させておけば、システム化によるコスト削減効果が薄れてしまうからである。

そのため、トラブルが起きると、普段はシステムが処理している大量の業務が、一斉に少数の従業員へ戻ってくる。

問い合わせが集中する。

電話がつながらなくなる。

メールへの返信が遅れる。

担当者につながっても、処理する権限がない。

社内でも原因や復旧の見込みが分からず、「確認します」という回答が繰り返される。

顧客からすれば、会社側のシステムの問題なのに、なぜ自分が長時間待たなければならないのかという不満が残る。

企業側からすれば、障害時のために人を増やせば、平常時には余剰人員となる。

この矛盾が、現在のシステム化が抱える大きな課題なのだと思う。

顧客の怒りを受け止めるのは従業員

さらに深刻なのは、システムトラブルによる顧客の怒りが、現場の従業員へ向けられることである。

現代は忙しい人が多い。

仕事の合間に予約を変更している人もいるだろう。

限られた時間の中で移動の予定を組んでいる人もいる。

その日のうちに手続きを済ませなければ、仕事や旅行全体に影響する人もいる。

そのような状況でシステムが動かず、電話にもつながらなければ、感情的になる人が出てくるのも無理はない。

「なぜ変更できないのか」

「空席があるのにおかしいではないか」

「いつまで待たせるのか」

「責任者を出してほしい」

しかし、電話に出た従業員がトラブルを起こしたわけではない。

それでも会社を代表して、顧客の怒りや不満を受け止めなければならない。

しかも、システムが正常に動いていないため、従業員自身も十分な情報を持っていないことがある。

原因が分からない。

いつ復旧するのかも分からない。

顧客が求める処理を行う権限もない。

そのような状態で謝罪を続けなければならないとすれば、従業員にとっても相当な負担である。

感情的になった顧客への対応には時間がかかる。

一件の対応時間が長くなれば、後ろで待っている顧客の待ち時間がさらに延びる。

長く待たされた顧客は、より強い不満を抱えた状態で電話をかけてくる。

従業員はますます疲弊する。

こうして悪循環が生まれる。

システム導入によって削減したはずのコストが、残業代、採用費、教育費、離職、メンタルケアといった別の形で戻ってくる可能性もある。

保険でお金は補えても、信用は戻らない

今後、サイバー攻撃やシステム障害のリスクは、さらに高まっていくのではないだろうか。

現在でもサイバー保険がある。

これからAIやロボットが普及すれば、AIの判断ミス、ロボットの誤作動、システム停止、事業中断などに対応する保険も増えていくかもしれない。

金銭的な損失については、保険で補える部分もあるだろう。

しかし、失った信用そのものを保険で取り戻すことはできない。

特にBtoCのビジネスでは、この問題は大きい。

顧客は、必ずしも強く苦情を言うわけではない。

損害賠償を求めるわけでもない。

ただ、次から利用しなくなる。

ホテルであれば別のホテルを選ぶ。

航空会社であれば別の航空会社を検討する。

通販であれば別のサイトから買う。

企業側の記録には、「問い合わせ一件、対応済み」と残るかもしれない。

しかし実際には、その顧客が将来利用するはずだった売上と、企業に対する信用を失っている可能性がある。

何も言わずに離れていく顧客ほど、企業には見えにくい。

システム復旧だけがBCPではない

これまでBCPというと、地震、台風、火災、停電、感染症などを想定することが多かった。

しかし今では、サイバー攻撃やシステム障害も、事業継続に直結する重要なリスクとなっている。

システムが停止すれば、予約ができない。

変更やキャンセルができない。

決済ができない。

商品を発送できない。

在庫が分からない。

顧客情報を確認できない。

システムへの依存度が高い企業ほど、その影響は大きくなる。

ただし、BCPとして考えるべきなのは、システムをどれだけ早く復旧させるかだけではないと思う。

復旧するまでの間、顧客へどのように対応するのか。

問い合わせが集中したとき、他部署や外部の応援を入れられるのか。

電話以外の問い合わせ手段を用意できるのか。

折り返し連絡を選べるようにできないか。

緊急性の高い顧客を、どのように優先するのか。

手作業で予約や変更を処理できる担当者がいるのか。

障害の状況や復旧見込みを、速やかに伝えられるのか。

顧客の怒りや苦情を、現場の従業員だけに背負わせない仕組みがあるのか。

そこまで考えて初めて、システム障害に対するBCPと言えるのではないだろうか。

人を減らすことと、人を不要にすることは違う

システム化は、これからも進むだろう。

AIやロボットが普及すれば、さらに多くの業務を自動化できるようになる。

それ自体は悪いことではない。

人が行っていた単純作業をシステムに任せることで、人はより重要な仕事に集中できる。

しかし、システム化によって人の仕事を減らすことと、人が不要になることは同じではない。

平常時には、システムが効率よく処理する。

異常時には、人が状況を判断し、顧客を安心させ、問題を解決する。

その役割まで削ってしまえば、システムが止まったとき、企業は顧客を支えることができなくなる。

今回のホテルでは、電話がすぐにつながり、その場で対応してもらえたため、電話対応自体に不満はなかった。

それでも、二度目のトラブルだったため、「またか」という思いが残り、ホテルへの信用は低下した。

航空会社では、システムで変更できないうえに、電話がつながるまで30分以上待つことになった。

どちらも大きな金銭的被害が発生したわけではない。

それでも、私の時間は使われ、企業への信用にも影響した。

システム化によって、人件費を減らすことはできる。

しかし、異常時に顧客を支える人や仕組みまで削ってしまえば、最後には企業の信用まで失うことになる。

システムを導入するときに考えるべきなのは、どれだけ人件費を削減できるかだけではない。

システムが止まったときに、顧客と従業員をどう守るのか。 そこまで設計されて、初めて本当の省力化と言えるのではないだろうか。