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還暦からの初USJ!夢の国で感じた光と影、そして未来への期待

プロローグ〜長年の夢、ついに実現の時〜

還暦を過ぎ、この年齢になってユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の門をくぐることになるとは、表向きには夢にも思っていなかった、しかし、それは建前だ。心の奥底では、この日をずっと懇願していたのだ。

全ての始まりは、数年前に偶然目にした一本の記事だった。「有馬温泉とUSJを結ぶ、直行バスが開通」。残念ながらこの便は今はないようだが、当時その文字を見た瞬間、私の頭の中に、ある理想の旅のプランが鮮やかに描き出された。日本三古泉のひとつである有馬の名湯で心身を癒し、その足で西日本が誇るエンターテイメントの殿堂、USJへと向かう。これ以上に贅沢な組み合わせがあるだろうか。その日から、「いつか必ず、この旅を実現させよう」という思いが、静かな炎のように燃え続けていた。

その思いは、妻も同じだった。彼女は筋金入りのハリー・ポッターファン。新作の映画が待ちきれず、翻訳版の発売を待たずに原書である英語版の分厚い本を購入し、辞書を片手に読み進めていたほどの熱狂ぶりだ。そんな彼女にとっても、ホグワーツ城がそびえ立つUSJは、一度は訪れたいと願う憧れの地だったのだ。

しかし、理想のプランというのは、えてして実現までの道のりが遠いものだ。なかなかきっかけを掴めずにいたある日、転機は思わぬ形で訪れた。私が毎年利用しているヒルトンホテルの無料宿泊特典。今年はどこで使おうかとウェブサイトを眺めていた時、偶然にもヒルトン系列の宿が有馬温泉にあることを見つけたのだ。その瞬間、頭の中に眠っていた計画が、カチリと音を立てて動き出した。「これだ!」。私はすぐに妻に相談した。長年二人で温めてきた夢の旅が、ついに現実のものとなる。私たちの心は、久しぶりに冒険へと向かう子供のように高鳴っていた。

周到な準備と、膨らむ期待

「初めてなのだから、要領よく回らないと」。そう考えた私たちは、少し奮発して「エクスプレスパス」を手配することにした。入場券と合わせると、正直なところ、なかなかの金額になった。しかし、これは長年の夢を叶えるための、そして時間と体験への大切な投資だ。限られた時間の中で、妻が心から楽しみにしている「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」は絶対に外せない。その他、人気の「スーパー・ニンテンドー・ワールド」や、懐かしさも感じる「ジュラシック・パーク・ザ・ライド」などを組み込んだ。

妻の情熱は、私のはるか上をいっていた。出発の何週間も前から、YouTubeでUSJの攻略動画を熱心に研究し始めたのだ。「このアトラクションは、この席が一番楽しめるらしい」「お土産は、このお店が品揃え豊富みたいよ」。毎日のように更新される彼女の情報に、私は感心しきりだった。その姿は、遠足前の小学生のように無邪気で、見ているこちらまで自然と笑みがこぼれてしまう。長年の夢が叶う瞬間に向けて、彼女の期待は最高潮に達している。その純粋な楽しみこそが、今回の旅の原動力なのだと、改めて感じた。

ゲートの向こうは、魔法にかけられた非日常

当日の朝。私たちは開園時間よりもずっと早く、8時過ぎにはパークのゲート前に到着した。平日にもかかわらず、そこには既に長い行列ができており、人々の熱気が朝の冷たい空気を温めているようだった。誰もが、これから始まる特別な一日に胸を躍らせている。その高揚感は、私たちにもすぐに伝染した。

一番最初に予約したアトラクションの時間は、11時過ぎ。それまでには十分すぎるほどの時間がある。私たちは、まず地図を片手に、この広大な「夢の国」をぐるりと散策することにした。

ゲートを一歩くぐった瞬間、世界は一変した。まるで古い映画のセットに迷い込んだかのような街並み、陽気な音楽、そしてすれ違う人々の弾けるような笑顔。ここは、日常の喧騒や悩みを一切持ち込むことが許されない、特別な空間だ。ディズニーランドもそうだが、この徹底して作り込まれた世界観は、訪れた者の心を一瞬で現実から切り離す、強力な魔法の力を持っている。

時間に追われ、様々な責任を背負って生きる現実の世界。そこから逃げ出すことを許された、まるで治外法権の聖域。もちろん、現実逃避ばかりが良いことだとは思わない。しかし、もし現実の世界でどうしようもなく行き詰まり、心が押しつぶされそうになっている人がいるのなら、この場所に身を置くだけで、ふっと肩の荷が下り、悩みが解決するきっかけになるのではないか。そんなことさえ思えてしまうほど、ここには圧倒的な開放感と肯定感に満ち溢れていた。

最高の魔法体験「ハリー・ポッター」と、少しの違和感

予約していたレストランで昼食の時間を確保し、私たちはいくつかのアトラクションを体験した。そして、いよいよ妻が待ちに待った「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」のエリアへ足を踏み入れた。

そこは、まさに映画で見たままの世界だった。雪を頂いたホグズミード村の家々、そびえ立つホグワーツ城。細部にまでこだわり抜かれたその景観は、もはや「再現」という言葉では表現しきれないほどのリアリティと迫力があった。エリアに一歩入っただけで、自分が魔法使いの世界の一員になったかのような錯覚に陥る。これは、世界中の人々が熱狂するのも当然だと、心の底から納得した。

メインアトラクションである「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」は、圧巻の一言だった。最新の技術を駆使し、本当に空を飛んでいるかのような浮遊感と、目の前に迫るキャラクターたちの臨場感。ストーリーを知らなくても楽しめるだろうが、物語を知る者にとっては、感動もひとしおだ。これほどまでに作り込まれたアトラクションは、間違いなく唯一無二の体験だろう。気づけば、私たちはショップで魔法の杖を手に取り、童心に返ってお土産を買い込んでいた。

しかし、正直に言えば、このハリー・ポッターの体験が素晴らしすぎたがゆえに、他のアトラクションが少し色褪せて見えてしまったのも事実だ。もちろん、それぞれのアトラクションが持つ魅力や楽しさは理解できる。スリル満点のジェットコースターも、可愛らしいキャラクターたちのショーも、それなりに楽しむことはできた。だが、「もう一度、絶対に乗りたい」という強い衝動に駆られたのは、結果的にハリー・ポッターだけだった。私たち夫婦の年齢的なものもあるのかもしれない。あるいは、期待値が高すぎたのかもしれない。理由は定かではないが、心にわずかな物足りなさが残った。

見栄えの裏にあるもの〜食事に感じた、夢と現実の乖離〜

旅の楽しみの一つは、やはり「食」だ。USJのレストランやフードカートで提供されるメニューは、どれもエンターテイメント性に溢れていた。泡の立つバタービール、キャラクターを模したカラフルなケーキ、驚くほど長細い容器に入ったビール。そのどれもが、思わず写真に撮りたくなるような見事な「見栄え」で、パークの世界観を一層盛り上げてくれる。まさに「インスタ映え」という言葉がぴったりの、視覚的な楽しさに満ちていた。

しかし、その華やかな見た目とは裏腹に、一口食べた時に、私は少し複雑な気持ちになった。鮮やかすぎる色彩、常温でも形を保ち続けるクリーム、そして画一的な味わい。もちろん、美味しいと感じる部分もある。だが、この見栄えと保存性を実現するために、一体どれほどの食品添加物が使われているのだろうか。そう考えると、少しだけ背筋が寒くなるような感覚を覚えたのだ。

「まあ、今日一日くらいはいいじゃないか」。そう自分に言い聞かせ、その場の雰囲気を楽しむことにした。しかし、もし自分の子供や孫が、これらの食べ物を毎日喜んで食べている姿を想像すると、素直に「良いことだ」とは思えない自分がいた。

もちろん、ここは食事そのものをじっくり味わう場所ではなく、最優先されるべきは「夢の世界」の体験であることは重々承知している。テーマパークの食事に、オーガニックや無添加を求めるのは野暮というものだろう。議論の場が間違っているのかもしれない。それでも、食が人間の体を作る根源的なものであることを考えると、もう少しだけ、その点に配慮があっても良いのではないかと感じてしまったのだ。

夢の国の存在意義〜明日への活力となるために〜

素晴らしい魔法と、少しの違和感。その両方を味わった一日が、あっという間に過ぎていく。パレードの光と音楽に包まれながら、私はこの「夢の国」の存在意義について、ぼんやりと考えていた。

人々は、非日常を求めてここへやって来る。現実を忘れ、心から笑い、感動することで、明日への活力を得る。その役割は、非常に尊いものだ。私自身、この場所に来たことで、心が解き放たれ、妻とのかけがえのない思い出を作ることができた。

ただ、私が思うのは、夢の世界は、あくまで現実をより良く生きるためのスパイスであってほしい、ということだ。夢から醒めた時、自分が今いる現実世界が、より愛おしく、より良いものに感じられる。そんな架け橋のような存在であってほしいのだ。

その意味で、USJはまだまだ発展する大きな可能性を秘めているのかもしれない。例えば、先ほどの食事の話。もし、見た目の楽しさはそのままに、子供たちの体にも本当に優しい食材を使ったメニューが加わったらどうだろうか。夢の世界で食べた美味しいものが、実は健康にも良い。そんな体験は、パークを出た後の日常の食生活にも、きっと良い影響を与えるはずだ。

エンターテイメントとしての完成度は、既に世界最高峰レベルにある。だからこそ、次なるステージとして、訪れる人々の「人生」そのものに、より深く、よりポジティブに関わっていく。そんな進化を遂げた時、USJは単なる「夢の国」を超えた、唯一無二の場所になるのではないだろうか。

還暦を過ぎて初めて訪れたUSJ。そこは、想像を遥かに超える感動と、人生の先輩としてのささやかな提言を、私に与えてくれた場所となった。妻の満足そうな笑顔を見ながら、私は次の機会について考えていた。

もし、またこの場所へ足を運ぶことがあるとすれば、私たちの目的はきっと一つだけだろう。それは、他のどのアトラクションでもなく、あの圧倒的な世界観を持つ「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」をもう一度、心ゆくまで堪能するためだ。そう考えると、今回あれほど重宝したエクスプレスパスも、次にはもう必要ないのかもしれない。ただ一つの世界に浸るためだけに、ゆっくりと時間を過ごす。そんな贅沢な一日も、悪くないだろう。

夢の国の魔法は、すべてが完璧ではなかったかもしれない。しかし、ホグワーツ城で体験したあの魔法だけは、どうやら、まだ私から解けそうにない。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役