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琵琶湖で聞いた、生き残るものの共通点

先日、お世話になっている先生の八十歳の誕生会で、滋賀県の琵琶湖まで行ってきた。
多くの方が集まる、とても温かく、晴れやかな会だった。八十歳という節目を迎えてなお、多くの人に慕われ、祝われる姿を見て、人が長く社会の中で価値を持ち続けることの尊さをあらためて感じた。

その場で聞いた話が、とても印象に残っている。
琵琶湖は、昔からずっと今の場所にあったわけではない。大昔は今の三重県あたりにあり、長い地殻変動の中で少しずつ北へ移りながら、現在の姿になったのだという。

最初に聞いたとき、私は驚いた。
あれほど大きく、悠然とそこにある湖が、実は何百万年もの間、変化し続けながら今に至っている。ずっと同じ場所に、同じ形で、変わらず存在してきたように見えるものほど、実はそうではない。むしろ変化を重ねてきたからこそ、今そこにあるのだ。

その話を聞いたとき、私はこれは単なる地学の話ではないと思った。
企業もまた、まったく同じではないか。
変わらなかったから残れたのではない。
変わり続けたから、生き残れた。
私はそう感じた。

多くの企業は、「変わらないこと」に安心を求める。
これまでこのやり方でうまくいってきた。
この商品が主力だった。
この営業方法で売れてきた。
この組織のあり方で回ってきた。
そうした成功体験は、もちろん大切である。企業がここまで来られたのは、間違いなく過去の努力と成果があったからだ。

しかし一方で、過去の成功体験ほど、企業を縛るものもない。
なぜなら、うまくいったやり方は、うまくいった時代の環境に適応していたからこそ成果を生んだのであって、環境が変われば、その方法は必ずしも正解ではなくなるからだ。

市場は変わる。
顧客の価値観も変わる。
人手不足は進む。
物価も上がる。
技術も変わる。
情報の伝わり方も変わる。
競争相手も変わる。
そして何より、社会そのものが変わる。

その中で、昔のやり方だけを守ろうとする企業は、少しずつ苦しくなっていく。
最初は小さな違和感かもしれない。
以前ほど売れなくなった。
採用がうまくいかない。
社員が定着しない。
値上げが通らない。
忙しいのに利益が残らない。
こうした現象は、単なる一時的な不調ではなく、環境とのズレが生まれているサインであることが多い。

それでも多くの企業は、「もう少し頑張れば元に戻るのではないか」と考える。
しかし、元に戻ることを願うだけでは、時代には追いつけない。
なぜなら時代は、こちらを待ってくれないからだ。

琵琶湖がもし、ずっと同じ場所に、同じ条件でとどまろうとしていたらどうなっていただろうか。
本来、湖は長い時間が経てば、土砂が流れ込み、次第に浅くなり、やがて埋まり、湿地や平地へと変わっていくことが多い。
けれど琵琶湖はそうならなかった。
変化する地殻の中で、新しい沈降域を持ち、形を変え、場所を変えながら、生き残ってきた。
つまり、変化を拒まなかったからこそ、残ることができたのである。

企業も同じだと思う。
放っておけば、企業は少しずつ埋まっていく。
昔の強みが弱みに変わり、昔の仕組みが重荷になり、昔の常識が今の非常識になる。
変化を止めた瞬間から、企業はゆっくりと時代の土砂に埋もれ始める。

では、企業は何を変えればよいのか。
ここで大事なのは、何もかも変えればいいという話ではない。
理念まで変える必要はない。
むしろ理念は、変えてはいけない部分かもしれない。
何のためにこの会社があるのか。
誰の役に立ちたいのか。
どんな価値を社会に届けたいのか。
この根っこの部分は、企業の軸であり、湖でいえば水そのものの存在理由のようなものだ。

変えるべきは、やり方である。
届け方である。
商品・サービスの形である。
価格の見せ方である。
人の活かし方である。
組織のつくり方である。
情報発信の方法である。
そして、社長自身の役割である。

昔は社長が全部やった方が早かったかもしれない。
営業も、採用も、判断も、現場も、自分が見た方が確実だったかもしれない。
しかし会社が成長していく中で、それを続ければ続けるほど、組織は社長一人の能力に依存してしまう。
その状態では、会社は大きくなりにくいし、持続もしにくい。

企業の成長には段階がある。
まずは中核商品をつくる段階。
次に経営基盤を安定させる段階。
そして最後に、社長がいなくても回る仕組みをつくる段階。
このどの段階にいるかによって、変えるべきものは違う。
商品を磨くべき時期に組織図ばかりいじっても意味がないし、仕組み化が必要な段階で、いつまでも社長が現場に張り付いていても前には進まない。

つまり、変化とは単なる思いつきではない。
自社の現在地を知り、その段階に応じて必要な変化を起こしていくことが重要なのだ。

ここで勘違いしてはいけないのは、変化とは派手なことをすることではないということだ。
新規事業を始めることだけが変化ではない。
高額なシステムを入れることだけが変化ではない。
流行りの言葉を並べることだけが変化ではない。
本当の変化とは、環境の変化に対して、自社のあり方を適切に調整することである。

たとえば、価格を見直すことも変化である。
安く売ることが正義だった時代から、適正な価値を伝え、納得して買ってもらう時代へ変わっている。
たとえば、採用の考え方を変えることも変化である。
とにかく人を集めるのではなく、自社の理念や役割に合う人が力を発揮できる環境を整えることが大事になっている。
たとえば、営業のあり方を変えることも変化である。
足で稼ぐだけでなく、情報発信や信頼形成を通じて、向こうから相談が来る状態をつくる必要がある。
こうした一つ一つは地味に見えても、企業の生存力を大きく左右する。

変わることは、怖い。
それまでの自分たちを否定するように感じることもある。
慣れたやり方を手放すのは、不安でもある。
しかし、本当に怖いのは変わることではない。
変われなくなることの方が、よほど怖い。

なぜなら、変われなくなった企業は、やがて選ばれなくなるからだ。
顧客からも、社員からも、取引先からも、社会からも。
変化しないということは、止まっているように見えて、実は後退していることでもある。
周りが進んでいる中で、自分だけその場に立ち止まっていれば、相対的にはどんどん離されていく。

一方で、長く続く企業には共通点があるように思う。
それは、時代に媚びるのではなく、時代を見ていること。
自社の本質を見失わずに、外側の形を変えていること。
そして何より、「自分たちはこのままでよいのか」と問い続けていることだ。

おそらく、企業にとって最も危険なのは、「うちは昔からこれでやってきたから」という言葉である。
そこには安心感がある。
だが同時に、思考停止も入り込みやすい。
昔からやってきたことは、尊い。
しかし、昔からやってきたことが、これからも通用するとは限らない。
歴史があることと、未来があることは、同じではない。

だからこそ企業は、変わり続けなければならない。
それは右往左往することではない。
軸を持ちながら変わることである。
自社の理念を土台にしながら、環境に合わせて形を変えていくこと。
まさに琵琶湖が、湖としての存在を保ちながら、場所も形も変えてきたように。

先日、八十歳の誕生会という節目の場で、その話を聞けたことにも意味があったように思う。
人も、企業も、組織も、本当に長く価値を持ち続けるものは、変化を恐れない。
いや、正確にいえば、変化を恐れながらも、それでも必要な変化から逃げない。
その積み重ねが、長く生き残る力になるのだろう。

変わらなかったから残れたのではない。
変わり続けたから、生き残れた。

琵琶湖の話は、地学の話であると同時に、企業経営の本質を教えてくれる話でもある。
もし今、経営に行き詰まりを感じているなら。
もし今、昔ほどうまくいかないと感じているなら。
それは衰退の始まりではなく、変化の必要性を知らせるサインかもしれない。

企業は、変わることでしか、生き残れない。
そして逆に言えば、変わり続ける限り、まだ未来はある。
私は琵琶湖の話を聞きながら、そんなことを強く感じた。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役