福岡の経営コンサルタント|笑顔商店

同じ条件なのに、顧客満足が変わる価格設計

先日、ある居酒屋に行った。
料理も美味しく、価格もリーズナブルで、全体としてかなり満足度の高い店だった。

味もよかった。
店の雰囲気も悪くない。
店員さんの接客も自然で、変に作り込んだ感じがなく、心地よかった。
こういう店に行くと、会計をする前から「また来てもいいな」と思うことがある。

だが、その日、私が本当に「この店はうまいな」と思ったのは、料理そのもの以上に、会計の場面だった。

レジ前に、こんな張り紙があったのである。

「現金払いの方は、さらに5%お安くします」

正直、かなり賢い店だなと思った。

なぜなら、世の中には逆の店がたくさんあるからだ。
会計のときに「カード使えますか?」と聞くと、

「使えますけれど、手数料が●%かかります」

と言われる店である。

もちろん、店側の事情は分かる。
カード決済には手数料が発生する。
小さな飲食店にとって、その負担は決して軽くない。
原材料費も上がっている。人件費も上がっている。光熱費も上がっている。
そんな中で数%の決済手数料が積み重なるのだから、少しでも利益を守りたいと思うのは当然だ。

だから私は、「カード手数料を取るなんてひどい」と言いたいわけではない。
理屈としては理解できる。
むしろ、現場の苦しさを考えれば、その判断自体は責められないだろう。

しかし、それでも客としては、あまりいい気持ちはしない。

なぜか。

それは単にお金の問題ではない。
その伝えられ方伝えられるタイミングに問題があるからだと思う。

たとえば、会計の段階で初めて

「カードは使えますけど、手数料がかかります」

と言われたとする。
その瞬間、お客さんの中にはいろいろな感情が生まれる。

「え、それは先に言ってほしかった」
「今さら『じゃあやめます』とは言いにくい」
「現金が足りたかな」
「店員さんの前で細かいことを言うのも気まずい」

こんなふうに感じる人は少なくないはずだ。

実際、中には「それならカード払いをやめます」と言いにくい人も多いだろう。
とくに会計の場面では、すでに食事は終わっているし、レジの前には店員さんもいる。
後ろに他のお客さんが並んでいることもある。
その状態で条件を出されると、たとえ不満があっても、飲み込んでしまう人は多い。

つまり、表面上は選べるように見えて、実際には選びにくい。
ここに違和感の正体がある。

だからこそ、これは単なる追加料金の話ではなく、
あと出しじゃんけんのような印象
になってしまうのだと思う。

事前に入口やメニューに明記されていれば、まだ話は違う。
お客さんはその条件を理解したうえで店を利用できるからだ。
しかし、最後の最後、会計の場面で初めて知らされると、
「それを今言うのか」
という感覚になる。

この“後から不利な条件を出された感じ”が、後味の悪さを生む。

一方で、
「現金払いの方は、さらに5%お安くします」
という張り紙は、印象がまるで違う。

同じように、店側には「現金比率を上げたい」「カード手数料を抑えたい」という事情があるはずだ。
けれど、その事情をむき出しで見せていない。
お客さんから見れば、そこにあるのは「追加負担」ではなく「特典」である。

現金で払えばお得になる。
カードでも別に責められない。
選ぶのは自分である。
そして何より、店の都合を押しつけられた感じがしない。

この差は大きい。

よくよく考えれば、経済合理性だけ見れば両者はかなり近い。
カード決済にはコストがかかる。
そのコストをどう価格に反映するかという意味では、

●カード利用者に追加負担してもらう

●最初から価格に含めておき、現金利用者に還元する

この二つは、本質的にはかなり近い話である。

それなのに、お客さんの受け止め方は大きく異なる。

なぜかと言えば、人は数字そのものだけでなく、
どう意味づけされたか
によって反応しているからだ。

「カードだと手数料がかかります」は、どうしても
損の提示
になる。

「あなたの支払い方だと余計に払ってもらいます」
「その負担はあなたが持ってください」
そう聞こえやすい。

一方、
「現金払いなら5%引きです」は
得の提示
になる。

「現金で払えばお得です」
「協力してくれたら還元します」
「選ぶかどうかはあなた次第です」
そう受け取られやすい。

同じ5%でも、まるで違う。

ここに商売の本質があると思う。

商売とは、単に価格を決めることではない。
その価格を、お客さんがどう感じるかまで設計すること
でもある。

多くの人は価格設計というと、「いくらにするか」の話だと思っている。
もちろんそれも大事だ。
しかし本当は、

●高いと感じるか

●妥当だと感じるか

●得した気分になるか

●嫌な気分になるか

●納得して払えるか

●渋々払わされる感じがするか

こうした感情まで含めて、価格設計なのだと思う。

今回の話で言えば、両者の違いは単なる言い方の違いではない。
どこを起点に設計しているかの違いである。

「カード手数料がかかるから、その分はお客さんに負担してもらおう」
これは店側のコストを起点にした発想だ。

もちろん、理屈としては正しい。
だが、それをそのまま見せると、“店都合”として伝わりやすい。

それに対して、
「今はカード払いが多いのだから、そのコストも含めて価格を設計しておこう。そのうえで現金払いの方には還元しよう」
という発想は少し違う。
こちらは、お客さんがどう受け取るかまで含めて考えられている。

計算式そのものは近いかもしれない。
でも、思想が違う。

前者は、店の負担をどう処理するかが出発点になっている。
後者は、お客さんの納得感をどうつくるかが出発点になっている。

私は、この違いが商売のうまさだと思う。

そして、さらに大事なのは、この差がリピートにも影響するということだ。

人は、店で起きた出来事を細かく正確に覚えているわけではない。
料理の価格を1円単位で覚えている人は少ない。
席に着いてから何分で料理が出たかを正確に記憶している人も少ないだろう。
会話の細部や、店員さんの言葉遣いを、一言一句そのまま覚えているわけでもない。

けれども、
その店で自分がどんな気持ちになったか
は意外と残る。

「なんとなく気持ちよかった」
「居心地がよかった」
「最後に少し嫌な感じがした」
「また行きたい気がする」
「悪くはないけれど、もういいかな」

人は出来事そのものよりも、感情の余韻を覚えていることが多い。

だから、会計時の印象は軽く見てはいけないのだと思う。
会計は、店での体験の最後にある。
つまり、その日の印象を締めくくる場面である。
最後に残った感情は、そのまま「その店の記憶」になりやすい。

料理が美味しかった。
接客も悪くなかった。
値段も高すぎない。
それでも最後に「カードなら手数料がかかります」と言われて、少し嫌な気持ちになれば、その小さな引っかかりが全体の印象を曇らせることがある。

逆に、最後に「現金払いならさらに5%お安くなります」と見れば、「あ、この店いいな」と前向きな気分のまま帰ることができる。
ほんの小さな差かもしれない。
しかし、その小さな差が、次にその店を思い出したときの感情を左右する。

これは飲食店に限らない。
コンサルでも、士業でも、小売でも、サービス業でも同じだと思う。

たとえば、

追加料金の伝え方

●納期変更の説明の仕方

●解約条件の見せ方

●オプション提案の切り出し方

●値上げの案内の仕方

こうしたものはすべて、「正しいかどうか」だけでなく、「どう感じるか」が問われる。
事実として正しくても、伝え方が悪ければ不満になる。
内容が同じでも、相手目線で設計されていれば納得につながる。

商売の世界では、
正しいこと選ばれることは、必ずしも一致しない。

理屈は正しい。
でも、感じが悪い。
内容は妥当。
でも、後味が悪い。
そういうことは現実にはよくある。

逆に、内容は同じでも、相手が受け取りやすい形に変換されていれば、支持される。
納得される。
また頼みたいと思ってもらえる。

私はこれを、商売の品格だと思っている。

商品力は大切だ。
価格競争力も大切だ。
けれど最後に選ばれるかどうかは、そうしたスペックだけでは決まらない。
お客さんがどんな気持ちでお金を払えたかが、とても大きい。

商売が上手い人は、自分たちの都合をそのまま押しつけない。
コストの話を、そのままコストの話として見せない。
お客さんが気持ちよく受け取れる形に翻訳する。

だから同じ条件でも、顧客満足が変わる。

先日行ったその居酒屋は、料理が美味しかっただけではない。
会計の最後の一言まで含めて、
「ああ、この店は商売がうまいな」
と思わせる店だった。

そして私は、この感覚はとても大事だと思う。
どんなに正しいことでも、相手が嫌な気持ちになる形で伝えれば、その価値は目減りする。
逆に、同じ現実でも、相手の立場に立って設計すれば、納得感と好印象が残る。

価格を決めることと、価格を伝えることは別の能力である。
そして本当に商売が上手い人は、その両方を分かっている。

人は、出来事の細部を忘れても、感情の余韻は覚えている。
だからこそ、商売において大事なのは、いくらで売るかだけではない。
どんな気持ちで帰ってもらうかまで含めて設計することなのだと思う。

「少し損した気分」で終わる店なのか。
「なんだか得した気分」で終わる店なのか。
その差は小さく見えて、実はとても大きい。

そしてその小さな差の積み重ねが、
「また行きたい店」と
「悪くはないけれど、次は別の店でいいかなと思われる店」
を分けていくのだろう。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役