物価高の今こそ考えたい、顧客満足度を上げる価格戦略
最近、ふと思うことがある。
多くの会社にとって、いまは本当に苦しい局面に入っているのではないか、ということだ。
原材料費は上がる。
人件費も上がる。
光熱費も上がる。
物流費も上がる。
少し前までなら何とか吸収できていたコスト上昇も、ここまで重なると、もはや企業努力だけで耐え続けるのは難しい。
特に飲食、小売、製造、サービス業など、日々の原価や経費の変動がそのまま経営に響く業種では、「もう値上げしなければ持たない」という局面に入っている会社も少なくないだろう。
けれど、その一方でこうも思う。
多くの会社は、その値決めを案外いい加減に決めているのではないか、と。
もちろん、経営者が真剣に考えていないという意味ではない。
むしろ皆、悩みながら決めていると思う。
ただ、その決め方が、
「原価がこれだけ上がったから、このくらい上げよう」
「競合もこのくらいだから、うちもそれに合わせよう」
「お客様が怒らないギリギリはこの辺だろう」
「とりあえず全部一律で上げておこう」
というように、どこか感覚的で、場当たり的になっていることが多いのではないかと思うのである。
しかし本来、値決めとはそんなに単純な話ではない。
いや、むしろ経営の中でもかなり重要なテーマの一つだと思う。
値決めとは、単に値段を決めることではない。
自社は誰に、どんな価値を、どんな形で届けるのかを決めることである。
だからこそ、値上げをただ「仕方のないコスト転嫁」として処理してしまうと、苦しいだけで終わる。
一方で、値決めを戦略的に考えれば、利益を守るだけでなく、顧客満足度を上げることすらできる。
私はそう思っている。
実は、昔こんな経験があった。
コンサルタントになりたての頃、宅配弁当の会社に入ったことがある。
当時その会社では、原価率の高さが大きな課題になっていた。
売上はある。しかし利益が残りにくい。
商売としては続いていても、経営としては不安定だった。
そこで幹部社員たちと一緒に、何が問題なのかを話し合った。
すると、現場からいくつか興味深い声が上がってきた。
一つは、ごはんを残す人が多いということ。
もう一つは、価格は安いが、見た目が少し質素ではないかということだった。
この二つの話は、一見別々のようで、実はつながっていた。
つまり、お客様は単純に「もっと量が欲しい」と思っているわけではなく、量としては少し多すぎる一方で、見た目や印象の満足感には改善の余地がある、ということだったのである。
当然、値上げの話も出た。
だが、一部社員には反発もあった。
安さが売りなのに、値上げなんてできるのか。
お客様が離れるのではないか。
そうした不安があったのだと思う。
そこで私は、ごはんの量を一割ほど減らし、その代わりにごはんの上にふりかけや梅干しをつけてはどうか、と提案した。
値段は据え置き。
その代わり、もっと食べたい人には大盛価格をいただくようにする。
量を減らすことに抵抗感を持つ人もいた。
それは当然だと思う。
「減らす」という行為は、どうしても後ろ向きに見えるからだ。
だが実際には、ごはんを残す人が多いという事実があった。
それならば、ただ多く盛ることが本当のサービスとは限らない。
むしろ、お客様にとってちょうどよい量に近づけることの方が価値になるかもしれない。
さらに議論になったのが、それをきちんと告知するかどうかだった。
黙って減らしてしまうこともできたかもしれない。
だが、最終的には正直に告知した方がよい、という判断になった。
結果はどうだったか。
約5%のお客様は離れていった。
しかし、多くのお客様の満足度は上がった。
しかも、新規のお客様も増えたのである。
これは実に示唆的だと思う。
表面的には「量を減らした」話である。
普通に考えれば、満足度が下がってもおかしくない。
しかし実際には逆だった。
なぜか。
それは、お客様が求めていた価値が、単純な量ではなかったからだと思う。
その会社の主要顧客は年配の方が多かった。
年配の方にとっては、量が多いことよりも、
食べきれること。
見た目に少し彩りがあること。
気配りが感じられること。
必要な人だけ大盛を選べること。
こうしたことの方が、満足につながったのだと思う。
つまりこの時、私たちがやったことは、単にコストを削ったのではない。
顧客に合った価値へと商品を再設計したのである。
私は、この話は今の値上げ局面にとても通じると思っている。
今、多くの経営者は「値上げしなければ厳しい」と感じている。
それ自体は間違っていない。
現実にコストは上がっているのだから、価格に何らかの反映をさせなければ、経営は苦しくなる。
しかし、本当に大事なのは「いくら上げるか」だけではない。
どう上げるかであり、
もっと言えば、どう再設計するかである。
値上げという言葉を聞くと、多くの人は「お客様に負担をかけること」だと考える。
しかし実際には、やり方次第で値上げは単なる負担にはならない。
そこに納得があり、価値が感じられ、伝え方が誠実であれば、お客様の受け止め方は大きく変わる。
例えば、ただ一律に価格を上げるのではなく、
量を見直す。
仕様を見直す。
見せ方を見直す。
選択肢を増やす。
利益を取る商品と集客商品を分ける。
告知の仕方を工夫する。
こうしたことを組み合わせれば、価格改定は「高くなった」という話だけでは終わらない。
むしろ、「前より納得しやすくなった」「分かりやすくなった」「自分に合う選び方ができるようになった」という変化にもなり得る。
私は、ここに経営力の差が出ると思っている。
値決めが下手な会社は、価格を単なる数字で考える。
いくら上げるか。
どのくらいなら通るか。
競合より高いか安いか。
もちろんそれも必要な視点だが、それだけでは足りない。
一方で、値決めが上手な会社は、価格を価値設計として考える。
この商品は何の価値を提供しているのか。
この顧客は何に満足を感じるのか。
本当に守るべきものは何か。
削っていいものと、絶対に削ってはいけないものは何か。
どう伝えれば、お客様に誠実さが伝わるか。
そこまで考えている。
価格とは、数字であると同時に、メッセージでもある。
安すぎる価格は、「この程度の価値です」と言っているようなものかもしれない。
高すぎる価格は、「あなたの気持ちは考えていません」と受け取られるかもしれない。
だから値決めとは、単に利益計算の結果ではなく、自社が顧客に何を約束するのかを表す行為でもある。
ここで、もう一つ思い出す話がある。
私の知人が、世界No.1のマーケティングコンサルタントとも言われるジェイ・エイブラハム氏の自宅に招かれた時、こう尋ねたそうだ。
「なぜ、あなたは世界一のマーケティングコンサルタントになれたのですか?」
すると彼は、こう答えたという。
「僕は、顧客から“どうやれば売れるようになるか”と聞かれた時、一貫して『知らない。顧客の声を聞け』と答えていたからだよ。」
私はこの言葉に、深い本質があると思う。
三流のコンサルタントほど、
「こうすれば売れます」
「こう値上げすれば大丈夫です」
「今はこれが正解です」
と簡単に言い切りたがる。
しかし実際に価値を決めるのはコンサルタントではない。
お客様である。
買うかどうかを決めるのも、お客様である。
満足するかどうかを決めるのも、お客様である。
だから、本当に優れた経営者やコンサルタントほど、自分の頭の中だけで答えを作らない。
顧客の声を見る。
行動を見る。
現場を見る。
そこから仮説を立て、小さく試し、結果を見て、また調整する。
経営とは、まさに実験と実証の連続なのだと思う。
値上げも同じである。
感覚で決めるのではなく、仮説を持って試す。
どの商品がどの顧客層に支持されているのかを見る。
価格を変えた前後で、客数、客単価、粗利率、離反率、新規率、クレーム内容を確認する。
そして、「何が効いたのか」「何がズレたのか」を学ぶ。
こうしたことを地道に繰り返していくことで、経営は少しずつ再現性を持ち始める。
この条件なら、このくらい売れる。
この顧客層には、この見せ方が合う。
この価格帯なら、利益も残り、満足度も下がらない。
そうしたことが見えてくる。
私は、経営基盤の安定化とは、偶然を減らし、再現性を増やすことだと思っている。
たまたま売れた。
何となく利益が出た。
今回はクレームが少なかった。
これでは安定とは言えない。
安定とは、
この打ち手を打てば、この反応がある
ということが少しずつ分かってくる状態である。
その意味で、値決めは経営のど真ん中にある。
物価高の今、多くの会社にとって値上げは避けて通れない。
だからこそ、ただ苦しみながら上げるのではなく、この局面を価値を見直す機会に変えられるかどうかが重要だと思う。
何を守るのか。
何を変えるのか。
誰に向けて届けるのか。
どんな満足を提供したいのか。
そのうえで価格をどう設計するのか。
そこまで考え抜いた値決めは、単なる値上げではない。
それは、顧客満足度を高め、利益体質を強くし、経営基盤を安定させるための経営判断である。 値上げが苦しい時代だからこそ、本当に問われるのは値上げの度胸ではない。
値決めの知恵である。
そしてその知恵は、会議室の中だけでは生まれない。
現場と顧客の中にこそ、答えのヒントがあるのだと思う。

髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役