先日、私は2つの展示会に足を運んだ。
1つはAIやロボット関連の展示会。もう1つはスタートアップの展示会である。
結論から言うと、正直かなり疲れた。
特にAI系の展示会は、会場を歩いているうちに「もういいかな」と思ってしまった。言葉を選ばずに言えば、どこを見ても似たような企業、似たような切り口、似たような説明ばかりで、まるで金太郎飴のようだったからだ。
「AI研修」
「業務効率化」
「ディープリサーチ」
「生成AI活用支援」
「社内導入サポート」
もちろん、それら自体が悪いわけではない。
むしろ今の時代、企業にとって必要なテーマであることは間違いない。だが、問題はその先だ。どこも同じような言葉を並べ、同じような課題を語り、同じような未来像を提示しているように見えた。
AIをこれから使いたい企業、あるいはまだ触ったことがない企業にとっては、それでも新鮮に映るのかもしれない。
しかし、すでに日常的にAIを使っている側からすると、「まだこの程度なのか」と感じてしまう場面が少なくなかった。
おそらく多くの出展企業は、「AIはこれから」という層をターゲットにしているのだろう。
それ自体は戦略として理解できる。市場にはまだAIを十分に使いこなせていない企業も多い。だから初心者向けの提案が多くなるのも自然ではある。
だが、その結果として会場全体が「AIをどう使うか」よりも、「AIという言葉をどう売るか」に寄ってしまっているように感じた。
本来、展示会は企業が課題と解決策を真剣にすり合わせる場のはずだ。ところが、実際には「AIを使っています」と言うこと自体が売り文句になっていて、その中身の違いがほとんど見えない。これでは、見学する側にとっては飽きがくるのも当然である。
ロボットの展示についても、私は少し期待外れだった。
特に知りたかったのは二足歩行ロボットの最新動向だったのだが、そのあたりの情報は思ったほど出ていなかった。現実の展示会では、やはり搬送、自動化、省人化、受付、点検といった実装寄りのロボットが中心になる。もちろんそれも重要だ。だが、せっかく足を運ぶなら、「今ここまで来ているのか」と感じられるような未来の片鱗にも触れたかった。
一方、もう1つのスタートアップ展示会は、AI展示会ほどの息苦しさはなかった。
とはいえ、そこでもやはりAI関連は多かった。今はどこへ行ってもAIである。だが、スタートアップ側にはまだ「何を変えたいのか」「何を解決したいのか」という意思が見える企業もあって、そこは少し救いだった。完成度は高くなくても、課題への執念や、社会の何を変えたいのかが感じられる企業は、やはり印象に残る。
今回、展示会を回っていて特に気になったのは、出展企業の多くが“リスト取り”にかなり力を入れていたことだった。
いや、力を入れていたというより、そこが目的化しているように見えた。
その象徴が、お菓子である。
驚くほど多くの企業が、お菓子を配っていた。
最初はたまたまかと思った。
だが、あまりに多いので、途中から「誰か指導でもしたのか」と思うほどだった。ここまでくると、正直に言えば「馬鹿じゃないのか」と感じてしまった。もちろん、お菓子そのものが悪いと言いたいわけではない。人に何かを差し出すことが悪いわけでもない。問題は、その目的と設計である。
おそらく企業側の発想はこうだろう。
まず立ち止まってもらう。
会話のきっかけをつくる。
名刺交換率を上げる。
接触件数を増やす。
展示会の現場では、そうした施策が“成果が出やすく見える”のだと思う。
実際、お菓子をきっかけに足を止める人はいるし、ノベルティがあれば名刺交換のハードルも下がる。社内報告の数字としては、「接点数が増えました」「名刺をこれだけ獲得しました」と言いやすい。
だが、本当にそれは成果なのだろうか。
私はむしろ逆ではないかと思う。
全く関係のない情報でリストを集めれば集めるほど、その後の営業コストは増える。
なぜなら、その中には最初から見込客ではない人が大量に混ざるからだ。
お菓子に惹かれて立ち寄った人。
とりあえず名刺交換だけした人。
情報収集が目的の人。
決裁権のない担当者。
暇つぶし半分で歩いている人。
こうした人たちがリストに大量に混ざれば、その後どうなるか。
メール配信のコストがかかる。
架電の工数がかかる。
営業担当の追客負担が増える。
MAのスコアリングも濁る。
商談化率は下がる。
現場は「リードは多いのに案件にならない」と疲弊する。
つまり、それは資産を集めているのではない。
処理コストを増やしているだけである。
数字上はリードが増えたように見える。
しかし実態は、ゴミリストが増えているだけかもしれない。
少し言い方は厳しいが、企業にとって本当に怖いのはここだ。見かけの成果があるように見えるから、間違ったやり方が修正されない。むしろ「これでうまくいっている」と思い込んで、さらに同じことを繰り返してしまう。
展示会で本当に重要なのは、名刺の数ではない。
その場でどれだけ“次の会話ができる相手”を見つけられるかである。
極端に言えば、100件の名刺より、5件の本気の見込客のほうが価値は高い。
だが多くの企業は、そこを逆に考えているように見える。数が多ければ成果だと思い、数が少なければ失敗だと思ってしまう。だから、質より量に流れる。
本来なら、展示会の場でやるべきことはもっとシンプルだ。
相手が何に困っているのかを聞く。
導入時期があるのかを確かめる。
既にAIを使っているのか、これからなのかを見極める。
実務担当なのか、決裁層なのかを分ける。
そして、それに応じて次に渡す情報や提案を変える。
初心者向けの企業に、難しい実装事例を見せても刺さらない。
逆に、すでにAIを使っている企業に、初歩的な話ばかりしても意味がない。
当たり前のことだが、その当たり前ができていない展示会が多いように感じた。
皆が同じようにお菓子を配り、同じようにリストを集め、同じように「AIで未来を変える」と言っている。
そこに差別化はない。
むしろ、皆が同じことをしている時点で、それは差別化策ではなく、思考停止の証拠である。
展示会を歩いていて強く感じたのは、今の時代、AIを使っていること自体にはもはや差がないということだ。
大事なのは、そのAIで何をどう変えるのか。
誰のどんな不満、不便、不安を、どこまで具体的に解消するのか。
ここが見えなければ、結局はどこも同じに見える。
そしてもう1つ大事なのは、営業やマーケティングの設計そのものだ。
今回の展示会で見えたのは、AIのレベル差以上に、営業とマーケティングのレベル差だったのかもしれない。
中身で勝負できない企業ほど、接触件数やノベルティに頼る。
逆に、本当に自社の価値が明確な企業は、無理に人を釣らなくてもいい。むしろ、誰に来てほしいかが明確だからこそ、伝え方も絞られるし、会話の質も上がる。
私は今回の展示会で、AIの未来を見に行ったつもりだった。
しかし実際に見たのは、流行語に群がる市場の現在地だったのかもしれない。
もちろん、すべての企業がそうだとは思わない。
中には真剣に課題解決に取り組み、独自の切り口を持ち、誠実に提案している企業もある。だが、会場全体として見れば、やはり「AIです」と言えば人が集まる時代の名残が色濃く残っていた。
ただ、その時代ももう長くは続かないだろう。
AIという言葉だけでは人は動かなくなる。
名刺の数だけでは成果とは呼ばれなくなる。
リストを取ること自体が目的になっている企業は、いずれ苦しくなる。
これから本当に問われるのは、
どんな相手に、どんな価値を、どんな順番で届けるのか。
その設計力である。
展示会は、その企業の未来を映す鏡でもある。
だからこそ、私はこう思った。
お菓子を配る企業が多い展示会ほど、提案の中身で勝負できていないように見える、と。
厳しい言い方かもしれない。
だが、数だけを追う営業の先に、本当の信頼はない。
そして、AIの時代だからこそ、最後に問われるのは、結局のところ人間の知恵と設計力なのだと思う。

髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役