福岡の経営コンサルタント|笑顔商店

【体験談】なぜ、あの「ラフィネ」は顧客を感動させられるのか?答えは“顧客リスクの引き受け”にあった。

序章:すべての始まりは、言い知れぬ「倦怠感」だった

今月に入ってから、どうにも身体が重い。明確にどこかが痛いとか、熱があるわけではない。ただ、まるで分厚い鉛のコートを無理やり着せられているかのような、じっとりとした倦怠感が常にまとわりついている。朝、目覚めても爽快感はなく、日中の集中力も散漫になりがちだ。気力という名のガソリンが、常に底をつきかけているような感覚だった。

確かに、思い当たる節がないわけではない。ここ最近は出張で東へ西へ、週末にはプライベートの旅行も重なり、物理的な移動距離はかなりのものだった。慣れないホテルのベッド、不規則な食事、気の張る仕事相手との会食。そんな一つ一つの小さな疲労が、ボディブローのように蓄積しているのだろう。

そんな時、ふと長年愛用している万年暦に目をやった。生年月日から導き出される、人生のバイオリズム。今月、僕の運勢は「第5衰運期」。季節に例えるなら「真冬」にあたる時期だ。草木が枯れ、動物たちが冬眠に入るように、人間の気力や体力も自然と内向きになり、低下していくとされるサイクル。ここ数ヶ月は自分でも驚くほど快調だっただけに、この急な「冬の到来」は、その落差も相まって、より一層こたえるのかもしれない。

原因が何であれ、この重く沈んだ心身を少しでも軽くしたい。そう思った僕は、出張先のホテルの近く、駅ビルの中にあったリラクゼーションサロンの扉を叩いた。「ラフィネ(Raffine)」という、全国展開している有名なチェーン店だ。正直、大きな期待があったわけではない。ただ、この疲れをどうにかしたい一心での、半ば衝動的な訪問だった。しかし、この何気ない訪問が、後に私のビジネス観を揺るがすほどの、大きな学びと発見に繋がるとは、この時の私は知る由もなかった。

第1章:私が体験した、ラフィネの「異常な」サービス

店内に足を踏み入れると、穏やかな声に迎えられた。通路に面した受付カウンターで、疲労困憊であることを伝えると、ボディケアやリフレクソロジーなどを組み合わせたコースを勧められる。ここまでは、ごく一般的な流れだ。異変、いや、驚愕の体験が始まったのは、施術が始まる直前のことだった。

セラピストの女性が、穏やかな口調で、しかしハッキリとこう告げたのだ。

「当店では、施術を10分間お受けいただき、万が一お体に合わない、心地よくないと感じられた場合には、料金は一切いただきませんので、ご遠慮なくお申し付けください」

一瞬、何を言われたのか理解が追いつかなかった。10分間、気に入らなかったら全額返金?そんなサービス、聞いたことがない。

考えてみてほしい。リラクゼーションやマッサージというのは、ある意味で「賭け」の要素が強いサービスだ。セラピストとの相性、技術の巧拙、力加減の好み。こればかりは、実際に施術を受けてみないとわからない。そして、これまでの経験上、「あ、この人、ちょっと合わないな…」と感じることは決して珍しいことではなかった。そんな時、私たちはどうするか。ほとんどの場合、「外れくじを引いてしまった」と諦め、ただ時間が過ぎるのを耐えるしかない。

しかし、ラフィネのこのシステムは、顧客が抱える根源的な不安、つまり「お金を払って失敗したくない」というリスクを、企業側が完全に引き受けてくれている。この一言があるだけで、客はどれほど安心して身を委ねることができるだろうか。

そして驚きは、それだけでは終わらなかった。施術が始まり10分後、コースが変わるたびに「このまま続けさせていただいてもよろしいでしょうか?」という確認が入るのだ。ボディケア10分後、リフレクソロジー10分後、ハンドリフレクソロジー10分後…。常に顧客に選択権があり、満足していないサービスに対して1円も払う必要がない。

この徹底した顧客本位の姿勢に、私は深く感動した。そして同時に、強い知的好奇心が湧き上がってきたのだ。これは単なる「親切なサービス」ではない。背後には、極めて高度なビジネス戦略が隠されているに違いない、と。この感動の正体こそが、今回の本題である**「リスクリバーサル」**というマーケティング手法だったのである。

第2章:感動の正体。「リスクリバーサル」とは何か?

さて、ここからが本題だ。私がラフィネで体験した感動的なサービスの正体、それは「リスクリバーサル」と呼ばれるマーケティング手法だ。

わかりやすくいうと、本来、買い手(顧客)側が持つリスク、具体的には購入後に考えられる後悔や不安などのリスクを、売り手(企業)側が引き受けることで、心理的な購入ハードルを劇的に下げ、その商品を買いやすくするためのあらゆる施策を指す。

人間が商品やサービスを購入する際、心の中では常に天秤が揺れ動いている。「これを手に入れることで得られる未来(ベネフィット)」と、「これを手に入れることで失うもの(お金・時間)や、被るかもしれない不利益(失敗・後悔)」を比較検討しているのだ。リスクリバーサルは、この後者の「不利益」の部分を、売り手が「大丈夫、そのリスクは私たちが持ちますよ」と肩代わりする行為に他ならない。

過去にヒットした事例として、あまりにも有名なものが二つある。

一つは、ドミノ・ピザの「30分以内にお届けできなければ、代金はいただきません」というキャンペーンだ。 顧客が宅配ピザに感じる最大のストレスは何か?それは「注文したピザが、一体いつ届くのかわからない」という不満と、「空腹で待っているのに、冷めたピザが届いたらどうしよう」という不安だ。ドミノ・ピザはこの「時間」と「品質」に関わるリスクを、「30分」という明確な基準と「無料」という強力な保証で完全に引き受けた。これにより、顧客は安心して注文できるようになっただけでなく、「30分」という時間がエンターテイメント性すら帯び、爆発的なヒットに繋がったのだ。

もう一つは、ライザップの「30日間で痩せられなかったら全額返金」という保証だ。 パーソナルトレーニングは、数十万円という高額な投資が必要になる。顧客が抱える最大のリスクは、「こんな大金を払って、本当に痩せられるのだろうか?もし失敗したら、お金が丸々無駄になってしまう」という「成果」に対する強烈な不安だ。ライザップは、この最も大きな心理的障壁を「全額返金」という形で取り払った。これにより、高価格にもかかわらず、多くの人が「それなら挑戦してみよう」と決断することができた。これは成果リスクに対する、最もパワフルなリスクリバーサルの一つと言えるだろう。

ここで勘違いしないでほしいのは、何も「返金」だけがリスクリバーサルではない、ということだ。本質はあくまで「お客様の心理的ハードルを下げる」ことにある。そのための方法論は、業種やサービスによって無限に考えられる。

例えば、あるペットショップでは、子犬の購入を検討している顧客に対し、「1週間のトライアル飼育」を提案しているという。これは、顧客が抱える「この子を家族に迎えて、本当にお互い幸せになれるだろうか」「自分のライフスタイルに合うだろうか」といった、お金では測れない情緒的なリスクを引き受ける、非常に優れたリスクリバーサルだ。1週間共に暮らしてみて、もし相性が合わなければ、購入しなくてもいい。この保証があるだけで、顧客は遥かに安心して、新しい家族を迎えるという大きな決断を下せるようになる。

ラフィネの例も、単なる返金保証ではない。「10分ごと」という短いスパンで、しかも「コースごと」に確認を取るというプロセスそのものが、「あなたの満足度を何よりも優先していますよ」という強力なメッセージとなり、顧客の心理的リスクを極限まで取り除いているのだ。

第3章:あなたのビジネスに応用する、リスクリバーサルの5分類

リスクリバーサルが、顧客の購入決断を後押しする強力な武器であることはご理解いただけたと思う。では、これを具体的に自社のビジネスに落とし込むには、どう考えればよいだろうか。顧客が感じるリスクは、大きく5つのタイプに分類できる。この分類に沿って考えれば、あなたの会社ならではのリスクリバーサルが見えてくるはずだ。

[1] 時間リスク → 「時間保証」で応える 「約束の時間通りに終わるだろうか?」「いつまでも待たされるのは嫌だ」というリスク。

[2] 品質リスク → 「品質保証」で応える 「思ったような品質じゃなかったらどうしよう?」「すぐに壊れたりしないか?」というリスク。

[3] 成果リスク → 「結果保証」で応える 「望むような結果が出なかったらどうしよう

[4] 継続リスク → 「無料トライアル」で応える 「契約した後に、使いこなせなかったらどうしよう?」「自分に合っているか、まず試したい」というリスク。

[5] 投資リスク → 「成果報酬制」で応える 「先に費用を払って、何も得られなかったら丸損だ」という、特にBtoB取引で発生しやすいリスク。

このように、自社の顧客が「購入をためらう理由」は何か?その不安の正体は、この5つのうちのどれに当てはまるか?を突き詰めていくことで、提供すべきリスクリバーサルの形が自ずと見えてくるはずだ。

結び:顧客の「不」の引き受けこそが、最強の信頼戦略である

あの日、出張先で感じていた心身の重さ。それを癒すために何気なく立ち寄ったラフィネで、私は単に身体をほぐしてもらっただけではなかった。顧客の不安や不満、つまり「不」を、企業がどこまで真摯に、そして具体的に引き受けられるか。その姿勢こそが、価格競争から脱却し、顧客から絶大な信頼を勝ち取るための源泉なのだという、ビジネスの真理を学んだのだ。

ラフィネのサービスは、自社の技術と接客に対する絶対的な自信がなければ成り立たない。リスクリバーサルとは、言い換えれば「自信の表明」でもある。中途半端な品質のサービスでこれを導入すれば、返金の嵐で会社はすぐに傾くだろう。だからこそ、リスクリバーサルを導入するという意思決定は、自社のサービス品質を根本から見直し、磨き上げるという覚悟とセットでなければならない。

このブログを読んでいるあなたが、もし経営者や事業責任者であるならば、ぜひ一度、立ち止まって考えてみてほしい。

あなたの顧客は、あなたの商品やサービスを購入する際に、一体どんな不安を感じ、何をためらっているだろうか? その心理的な障壁を取り除くために、あなたは顧客のリスクをどこまで引き受ける覚悟があるだろうか?

さて、あなたの会社ならば、どんなリスクリバーサルが考えられるだろうか?

その答えを見つけ出し、実行に移した時、あなたのビジネスは、顧客から「選ばれるべくして選ばれる」存在へと、大きく飛躍を遂げるに違いない。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役