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「朝令暮改」は悪か、進化か?VUCA時代に求められる「羅針盤」と「適応力」の正体

ビジネスの現場で、一度は耳にしたことがある、あるいは身に染みて感じたことがある言葉――「朝令暮改(ちょうれいぼかい)」

「朝に出した命令が、夕方にはもう変わっている」というこの言葉は、多くの場合、現場を振り回す上司や、一貫性のない組織を批判する文脈で使われます。せっかく準備した資料が、夕方の指示一つでゴミ箱行きになる。そんな徒労感から、この言葉は「計画性のなさ」や「信頼性の欠如」の代名詞とされてきました。

しかし、先行きが不透明な現代において、本当に「朝令暮改」は避けるべき「悪」なのでしょうか?

実は、この言葉の捉え方一つで、その組織が「衰退する硬直組織」か「進化する適応組織」かが決まると言っても過言ではありません。今回は、この四字熟語の本質を深掘りし、現代ビジネスにおける「正しい朝令暮改」と「組織を壊す朝令暮改」の境界線について考察します。

なぜ「朝令暮改」はこれほどまでに嫌われるのか

まず、この言葉がなぜこれほどまでにネガティブな象徴として君臨し続けているのか、その背景を整理しましょう。

言葉の定義とニュアンス

「朝令暮改」は、中国の古典『漢書』に由来する言葉です。もともとは法令が頻繁に変わりすぎて、民衆が何を信じればいいか分からず困窮している様子を批判するために使われてきました。

・朝令:朝に出した命令

・暮改:夕方(暮れ)には改める

現場で起こる深刻な問題

ビジネスの現場で「朝令暮改だ!」と不満が出る時、そこには以下のような負の影響が生じています。

・無駄な作業の増加:準備した根回しや資料作成が水の泡になる。

・モチベーションの低下:「どうせまた変わるだろう」という諦めが蔓延し、主体的・自律的な動きが止まる。

・信頼関係の悪化:上司の判断力への疑念が生まれ、「この人についていって大丈夫か」という不安が広がる。

・効率の低下:方針転換のたびに軌道修正が必要となり、本来進むべきスピードが削がれる。

しかし、ここで立ち止まって考えてみたいのです。「一度決めたことを、状況が変わっても意地でも変えないこと」は、本当に正義なのでしょうか?

戦略と戦術の区別:その「朝令暮改」の正体を見極める

「朝令暮改」を批判する際、私たちは「何が変わったのか」を冷静に見極める必要があります。ここで重要になるのが、「戦略(変わってはいけないもの)」「戦術(柔軟に変えるべきもの)」の区別です。

組織を壊す「戦略レベル」の朝令暮改

一番の問題は、「そもそもどこを目指しているのか」という根幹(戦略・ビジョン・目的)がコロコロ変わることです。

・会社の目指す方向性

・事業の根幹となる方針

・長期的なビジョン これらが朝令暮改であれば、組織は「羅針盤」を失った難破船と同じです。右に行くと言った翌日に左に行く。これは間違いなく、組織を崩壊させる「悪い朝令暮改」です。

むしろ推奨される「戦術レベル」の朝令暮改

一方で、「目標達成のための具体的な手段(戦術)」の変更は、むしろ状況が変われば当然行われるべきものです。

・目標達成のための具体的手段

・日々の業務の進め方

・状況に応じたアプローチ これらは環境変化に応じて変えるのが当たり前であり、それを「朝令暮改だ」と批判するのは、本質を見誤っています。

本質的な問題:羅針盤を見ていない部下の愚痴

現場で愚痴を言う部下の多くは、実は「何のために(目的)」が見えていないことが多いのです。 指示を単なる「作業」としてしか捉えていないため、手段の変更を「振り回された」と感じてしまいます。上司からすれば「状況が変わったから、目的達成のために最善の手段に更新した」だけなのですが、目的(羅針盤)を見ていない部下には、単なる上司の優柔不断にしか映らないのです。

歴史に学ぶ「適応」の極意:徳川家康の柔軟な生存戦略

歴史上の偉人たちも、乱世という名の不確実な時代を「朝令暮改」的な柔軟さで生き抜いてきました。その代表格が徳川家康です。

三方ヶ原の敗北と「敵からの学習」

武田信玄に大敗した家康。彼は、己の失策を隠すのではなく、その屈辱的な姿を絵に描かせ(顰像:しかみ像)、生涯手元に置いて自らを戒めました。 さらに驚くべきは、敗戦後、敵である武田軍の優れた戦術や軍制を即座に取り入れたことです。昨日までの自軍のスタイルを捨て、最強の敵の強みを吸収する。この「昨日の自分を否定する勇気」が、後の最強の徳川軍団を作る礎となりました。

江戸移封という巨大な「ピボット(方向転換)」

豊臣秀吉から、住み慣れた三河・遠江を離れ、当時は荒野だった江戸への「国替え」を命じられた際、家臣団は猛反対しました。しかし家康は、これを「新たな秩序を作るチャンス」と捉え、方針を転換しました。 家康にとっての「羅針盤」は「徳川の存続と天下太平」であり、そのための本拠地や戦術は、状況に応じていくらでもアップデートしていい「変数」に過ぎませんでした。

家康は、目的(天下泰平)という羅針盤を絶対に変えなかったからこそ、戦術(居城や軍制)を朝令暮改のごとく柔軟に変えることができたのです。

現代を覆う「VUCA」の怪物:なぜ今「改善する勇気」が必要なのか

なぜ今、あえて「朝令暮改」を肯定的に捉え直す必要があるのでしょうか。それは、私たちが「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる予測不能な時代に生きているからです。

・Volatility(変動性):変化のスピードが極めて速い。

・Uncertainty(不確実性):未来の予測が困難。

・Complexity(複雑性):要因が複雑に絡み合っている。

・Ambiguity(曖昧性):絶対的な正解が存在しない。

かつてのように「10年後の計画」を立ててその通りに進めることができた安定の時代は終わりました。VUCAの時代において、「一度決めたことに固執すること」は、崖に向かって全力疾走し続けるようなリスクを孕んでいます。

昨日の正解が、今日の不正解になる。そんな世界で生き残るためには、「朝に立てた仮説を、夕方の最新情報に基づいて即座に修正する」というスピード感こそが、最大の競争力になります。

昨日よりも今日、今日よりも明日、より良い方法が見つかったなら即座に変える。それを「ブレている」ではなく「進化している」と捉えるべきです。変更を恐れて、明らかに劣る方法に固執する方が、組織にとってはよほど深刻な問題なのです。

朝令暮改を「進化」に見せる7つのコミュニケーション技術

指示を出す側にも責任はあります。戦術の変更を「迷走」ではなく「柔軟な適応」として部下に受け止めさせるには、以下の7つの技術が必要です。

❶ 「目的(WHY)」を常に先に伝える

指示の内容(WHAT)よりも先に、なぜそれが必要なのかを語ります。

❌ 「この資料、縦向きに直して」

✅ 「経営会議で投影する環境が変わったから(目的)、この資料を縦向きに直してほしい」 目的が分かれば、後の変更も「状況への適応」として納得感が生まれます。

❷ 「確定度」を明示する

指示の段階で、その方針がどの程度固まっているのかを伝えます。

・「これは確定事項だ(変更なし)」

・「現時点の方針だが、状況次第で変わる可能性がある(変更あり得る)」

・「とりあえず仮でやってみて、反応を見よう(変更前提)」 あらかじめ予告しておくことで、変更が「想定内」になります。

❸ 「変わるもの」と「変わらないもの」を区別する

「今月のプロジェクト目標は絶対(戦略)」だが、「そのための優先順位は状況を見て変える(戦術)」と、羅針盤の軸を明確にします。

❹ 変更時に「理由」をセットで伝える

「さっきの件、やっぱりこうして」ではなく、「さっきの件、取引先から追加の要望が入ったから、最適化するためにこう変更したい」と、外部要因や改善の根拠を添えます。

❺ 「前提条件」を共有する

指示を出す際、「A社が承認すればこの案でいく。もしNGならB案に切り替えるよ」と、事前に分岐点を示しておきます。これにより、実際に切り替わっても部下は混乱しません。

❻ 変更の「パターン」を予告する

「このプロジェクトは顧客の反応を見ながら進めるアジャイル方式だから、週次で方針を調整していくよ」と、変更をプロセスの前提として組み込みます。

❼ 「意思決定の階層」を明示する

「これは私が判断できる範囲」「これは役員決裁が必要なプロジェクトだから、後で変わる可能性がある」と分けることで、上層部からの変更の可能性を予告できます。

結論:一貫性よりも「誠実な適応力」を

「朝令暮改」という言葉に怯える必要はありません。

本来、リーダーにとって最も不誠実なことは、「自分の間違いや状況の変化に気づいていながら、メンツのために指示を変えないこと」です。

昨日までの自分の判断を、今日の新しい情報で超えていく。

・戦略(ビジョン)は、岩のようにどっしりと。

・戦術(手段)は、水のようにしなやかに。

羅針盤(目的)をしっかりと握りしめ、荒波に合わせて帆の向きを柔軟に変え続ける。その「進化し続ける姿勢」を組織の文化にできたとき、「朝令暮改」は組織を壊す凶器ではなく、VUCA時代を生き抜くための最強の武器へと変わります。

さあ、明日から胸を張って言いましょう。「もっと良い方法が見つかった!変えよう!」と。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役