福岡の経営コンサルタント|笑顔商店

「サービス業は差別業」

——AI時代に問われる、“人を見ているか”という本質

「サービス業は差別業である。」

昔、そんな言葉を聞いたことがある。

最初はかなり違和感があった。

差別という言葉には、どうしてもネガティブな響きがある。
人を見下す。
区別する。
排除する。

そういう印象を持つ人も多いだろう。

しかし、長年ビジネスやサービス業を見てきて、私は今、この言葉は本質を突いていると思っている。

もちろん、ここでいう「差別」とは、人を見下すことではない。

人の違いを理解し、相手によって対応を変えること。

これが本来のサービス業だからである。

しかし、日本では「平等」という言葉が非常にもてはやされる。

もちろん、人を尊重するという意味での平等は大切である。

だが近年、その平等が少しおかしな方向へ進んでいるようにも感じる。

例えば、運動会で「みんな手を繋いでゴールする」という話を聞いた時、私はかなり強い違和感を覚えた。

もちろん、足が遅い子を責める必要はない。
競争だけが全てでもない。

しかし、「違いがあること」そのものを無くそうとするのは危険だと思う。

なぜなら社会に出れば、人は全員違うからである。

得意なことも違う。
苦手なことも違う。
性格も違う。
価値観も違う。
求めるものも違う。

それなのに、

「みんな同じ」

を前提にすると、人を見る力が育たなくなる。

そして私は、その延長線上のような出来事を、あるホテルで体験した。

そのホテルには、私は何度も宿泊していた。

高級ホテルというほどではないが、価格帯としては決して安いホテルではない。

立地も悪くない。
建物も比較的新しい。
大浴場もある。
朝食もそこそこ評判が良い。

つまり、一般的に見れば「悪くないホテル」である。

私は出張の際に何度も利用していたので、当然ある程度の顧客情報は管理されているものと思っていた。

しかし、チェックイン時に受付でこう聞かれた。

「初めてのご利用ですか?」

私は正直、その瞬間かなり冷めた。

もちろん、受付スタッフに悪気はない。
責めるつもりもない。

しかし私は心の中で、

「ああ、このホテルは顧客を見ていないんだな」

と思ってしまった。

今の時代、顧客管理システムを導入すれば、宿泊履歴など簡単にわかる。

何度目の利用なのか。
どんな部屋を好むのか。
過去に何か要望があったのか。
朝食付きプランを好むのか。
領収書の宛名はどうしているのか。

本来、それくらいは把握できる時代である。

つまり問題は、

「初めてですか?」

と聞かれたことではない。

“自分を認識していない”

と感じたことなのである。

これはサービス業において、かなり致命的だと思う。

なぜなら、顧客が本当に求めているものは、豪華さだけではないからだ。

人は、

「覚えていてくれた」

時に嬉しさを感じる。

「以前もご利用いただきありがとうございます。」

たったそれだけでも、人は気分が変わる。

つまりサービス業とは、単なる接客ではない。

関係性の積み重ねなのである。

そして面白いことに、そのホテルでは別の日に、大浴場のお湯が少しぬるかったことがあった。

するとスタッフは、何度も何度もしつこいくらい謝罪してきた。

フロントでも謝る。
エレベーター前でも謝る。
翌朝も謝る。

もちろん、それ自体は悪いことではない。

日本らしい丁寧さとも言える。

しかし私は逆に、

「そこじゃないんだよな」

と感じてしまった。

つまりそのホテルは、

設備トラブルには非常に敏感である。

マニュアル上のミス。
クレームになりそうな問題。
目に見える失点。

そこには完璧主義レベルで反応する。

しかし一方で、

「このお客様は何度も利用してくれている」

という、もっと本質的な部分を見ていない。

ここに私は、日本型サービス業の限界のようなものを感じた。

日本企業は真面目である。

だから、

●マニュアル遵守

●オペレーション品質

●謝罪対応

●クレーム処理

●均一サービス

は非常に高い。

しかしその一方で、

「人を見ているか」

が抜け落ちることがある。

これはある意味、「平等教育」の影響もあるのではないかと思っている。

つまり、

全員に同じ対応をすることが正しい。

そういう思想である。

しかし本来、サービス業とは真逆の仕事だ。

相手によって対応を変える。

これが本質だからである。

例えば飲食店でもそうだ。

常連客と新規客。

どちらが大切か?

もちろん両方大切である。

しかし最近は、「新規客、新規客」と言いすぎる会社が増えたように感じる。

経営者が新規獲得ばかりを重視する。
広告。
SNS。
クーポン。
キャンペーン。

すると現場も、新規客対応ばかりに意識が向く。

その結果、長年通ってくれている常連客が、静かに離れていく。

「最近、雑になったな。」
「前ほど大切にされていない。」
「新規ばかり優遇されている。」

そう感じて、何も言わずに去っていく。

これが一番怖い。

なぜなら、常連客こそが店の土台だからである。

常連客は、

●繰り返し利用してくれる

●売上を安定させる

●スタッフを育てる

●店の空気を作る

●口コミしてくれる

●新規客に安心感を与える

存在だからだ。

つまり、企業にとっての“資産”なのである。

一方、新規客の獲得には大きなコストがかかる。

広告費。
販促費。
値引き。
キャンペーン費。

常連客を失えば、その穴を埋めるために、さらに新規客を集めなければならなくなる。

すると利益率が落ちる。

利益率が落ちると、人件費を削る。
教育費を削る。
現場に余裕がなくなる。

結果、サービス品質が落ちる。

そしてさらに常連客が離れる。

これは非常に危険な悪循環である。

さらに怖いのは、「行き過ぎたサービス」である。

一見、良いサービスに見えて、実は危険なものがある。

例えば、あるホテルで新規顧客が普通の部屋を予約したとする。

たまたま上位ランクの部屋が空いていた。

そこでホテル側が、頼まれてもいないのに無料でグレードアップした。

顧客は当然喜ぶ。

「すごく良いホテルだった」と口コミする。

そして次回、友人を連れてまた宿泊する。

しかし今度は、予約した通りの部屋に案内された。

すると顧客はこう感じる。

「前回と違う。」
「サービスが落ちた。」
「友人を連れてきたのに恥をかいた。」

本来、ホテル側は何も悪いことをしていない。

予約通りの部屋を提供しただけである。

しかし、前回の“特別対応”が、顧客の中で“標準サービス”になってしまっている。

そこでクレームになる。

支配人がワインを持って謝罪する。

すると今度は、その対応までが「当然の補償」として記憶される。

この流れが続くと、ホテルはどうなるか。

無料アップグレードが当たり前になる。
クレームにはワインを出すのが当たり前になる。
現場は疲弊する。
原価は上がる。
利益は削られる。
他の顧客との公平性も崩れる。

そして最後には、

“良いホテル”

ではなく、

“自分で自分の首を絞めるホテル”

になってしまう。

だからサービスにおいて大切なのは、

「何でもしてあげること」

ではない。

条件を明確にすること。
期待値を設計すること。
再現できる範囲で提供すること。

これがなければ、親切は経営を壊す。

だから世界トップクラスのホテルブランドである Marriott International、Hilton、Hyatt、あるいは Japan Airlines や All Nippon Airways のような航空会社は、この部分が非常にうまい。

もちろん、表面的には全員に丁寧である。

しかし裏側では、かなり細かく顧客情報を管理している。

会員ランク。
利用履歴。
好み。
過去の対応。
座席傾向。
クレーム履歴。

つまり、「人によって対応を変える」ことを、完全に仕組み化しているのである。

しかも重要なのは、それを露骨に見せないことだ。

常連客は大切にされていると感じる。
しかし新規客も不快感を感じにくい。

この絶妙なバランスを作っている。

これは非常に高度な経営だと思う。

そして私は、AI時代になるほど、この差はさらに大きくなると思っている。

なぜなら、

“ミスをしない”

だけならAIの方が得意だからである。

予約。
問い合わせ対応。
翻訳。
マニュアル説明。

こういうものは、どんどんAI化されていく。

つまり、

「そこそこ丁寧」

は誰でもできる時代になる。

すると最後に差が出るのは何か。

それは、

「人を見ているか」

なのである。

覚えていてくれた。
理解してくれている。
自分に合った対応をしてくれる。

人が本当に感動するのは、実はこういう部分だ。

だから私は、サービス業とは単なる接客業ではないと思っている。

サービス業とは、

人間理解の仕事

なのである。

そして一流企業ほど、昔からそれを研究している。

彼らは単に接客を研究していたのではない。

人間そのものを研究していたのだと思う。

だからこれからの時代に必要なのは、

「全員を同じように扱う平等」

ではない。

一人ひとりの違いを見抜き、
その人にとって最適な対応を選ぶ“公平”である。

サービス業とは、人を同じ箱に入れる仕事ではない。

人の違いを理解し、その違いに応じて価値を届ける仕事なのである。

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髙栁 和浩 笑顔商店株式会社 代表取締役